MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『3Dマジック160連発!』

ビデオデッキを買ったのは、
はたしていつ頃だっただろうか。
ひょっとすると、
もう30年以上も前になるかもしれない。
映像を繰り返して何度でも見られるのだから、
マジシャンとしては実にありがたい機器の登場だった。
海外のマジシャンの映像を何度も見て、
技術や演出の妙に大いに感心したものだ。

米国で家庭用のビデオ機器が販売され始めた頃、
電気店の店頭で流された映像はマジックだったという。
マジシャンの隠されたテクニックをコマ送りや
スローモーションで客に見せて、
ビデオの面白さをアピールしていたのだろうか。

昨年、3Dカメラでのマジック収録があった。
電気店の店頭に並ぶ
3Dテレビに流されていた立体映像も、
やはりマジックだったのだ。
3D用のメガネをかけて、
客たちはハンカチーフの中から飛び出てくるハトに
のけぞったりしたに違いない。
3Dだと、ハトが羽ばたきながら襲ってくるように見えて
迫力満点なのだ。

3D用の映像はマジックだけではなくて、
やはりと言うべきか、
水着のファッションショーの映像もあった。
美しいモデルたちがビキニの水着姿で
目の前に迫ってくる。
仏像の3D映像も見たが、
やはり歩いてくる水着美女の魅力が勝っていたように思う。

さて最近では、3Dゲーム機でマジックを配信している。
立体映像で毎日違ったマジックを見られるのだ。

3Dで見るマジックは、これまでの2D、
平面の映像とは明らかに違うように感じられる。
2D、平面で見るマジックは、
残念ながら実際に見るマジックの不思議さ意外さが
半減してしまう。
なぜなら、マジックを間近で見ている時は
視線が見たいところにフォーカスされていくのに、
画面になると全体をフラットに見るしかないからだ。
そうなると、不思議さにも意外性にも
フォーカスされないまま
マジックが進行することになってしまう。

それが3Dとなると、
実際に目の前でマジックを見ているような気分になる。

「どうぞ、1枚のカードを覚えてください」

そういうマジシャンの手が、
本当に目の前に差し出されているように見える。
すると、広げられたカードに
自然にフォーカスが集中するのだ。

2Dの横だけの動きに、新たに縦の動きが加わる。
それだけで、視線の動きだけではなく見たいところ、
関心もあちこちに動いていく。
まさに、普通にマジックを見ているのと同じ状況になる。
そうなればマジシャンに必要不可欠な
ミス・ディレクション、
観客の視線と関心を違う方向に向けることができる。
つまり、タネから視線や関心を遠ざけることが容易になる。
そうして始めて、見ている側は
マジックの不思議さを意外性を伴って
感じられるというわけなのだ。

そんな3D効果に喜びつつ、
もう半年近く収録を続けている。
毎日配信なので、提供したマジックは
早くも160本を超えている。
性格は良いが口の悪いディレクターが言う。

「さすが、質より量のナポさんですねぇ」


スタジオにこもり、1日に20本分も3D収録してしまう。
毎日配信されるゆえ、次々に収録をしないと
間に合わないのだ。

3Dにピッタリのマジックもあれば、
立体映像にしても効果の少ないマジックもある。
我々の代表作である
『あったま・ぐるぐる』というマジックも、
3D映像で撮ってもらった。
ディレクターが言う。

「小石さん、残念ながら
 『あったま・ぐるぐる』は3Dでも
 2Dでも変わらないですねぇ」

私は激しく抗議をしたかったのだが、
ディレクターや技術スタッフ全員が
3D用の大きく黒いメガネをかけていて、
ちょっとガラの悪いお兄さんのように見える。
その迫力に負けて反論の言葉を飲み込んでしまった。

3D映像は素晴らしいのだが、
収録時のあのメガネだけは何とかならないだろうか。
誰がかけても、相当な強面に見えてしまうのだ。

先日の収録の際、誤ってスタジオのドアを開けて
入ってきた女性がいた。

「誰だぁ、おい、カメラ止めろ」

黒いメガネの怪しい男たちが、
一斉に女性を見ながら叫んだ。
気の毒なことに、女性は恐れをなして逃げ去ってしまった。
彼女は、見てはいけない
アンダーグラウンドな収録現場を見てしまったと勘違いし、
恐怖に怯えているに違いない。

丸い形、あるいはフチが黄色のメガネとか、
もう少しご陽気なメガネにしてもらいたいものだ。

もっとも、3Dゲーム機は
メガネなしで立体映像が楽しめる。
電車の中でも、メガネなしで多くの人が楽しんでいる。
もしもあの大きく黒いメガネが必要で、
大人も子供も黒いメガネをかけていたら、
電車の中はかなり不穏な空気が漂うことだろう。

ミカンが消えて再び現れない『ミカン成マジック』、
パンとどら焼きが出現する『パンドラの箱』、
薄いインクで書かれた『国内(濃くない)旅行』など、
およそ3Dは不釣り合いなものもある。

だが、新たな展開を見せる3Dマジックの魅力を、
これからも続々と発信していきたいと願っている。

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2012-01-08-SUN
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