MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『はなはだ勝手ながら』

JRがまだ国鉄だった頃、駅も周辺も禁煙ではなかった。
喫煙者はホームで喫煙し、
吸い殻を線路にポイポイと捨てていたものだ。

線路上に無数のタバコの吸い殻が落ちている光景を、
なぜだか鮮明に覚えている。
新幹線などの長距離列車の席には、灰皿が付いていた。
飛行機も同様に、喫煙席が全体の半分以上を占めていた。
街のレストランや喫茶店でも禁煙席などなく、
禁煙という概念すらなかったように思う。

ところが今や、
タバコは街から追放される運命にあるようだ。

僕は、学生時代には喫煙者、ヘビースモーカーだった。
1日に2箱は吸っていたが、ある日禁煙を決意した。
始めに、普通のタバコを止めて
安い葉巻とパイプタバコに換えた。
こうすると、お手軽に吸うことができなくなるのだ。
駅のホームで葉巻に火を点けてしまうと、
次々に入ってくる電車を何台も見送らなければならない。
なんせ、1本を吸い切るのに最低でも10分はかかる。
パイプも同様だ。
そうなると、自分のアパートでゆっくりと吸う以外に
葉巻もパイプも楽しめなくなった。
やがて葉巻もパイプも面倒になり、
ついには禁煙に成功したのだった。
なんだか逆療法のようだが、
僕には効果てきめんの禁煙法だったのだ。

禁煙してしまうと、今度はタバコの煙りが苦手になった。
煙いと同時に、あの臭いが極端に嫌いになってしまった。
僕の鼻は遠くのタバコの臭いまで感知してしまい、
急ぎ離れなければならなくなった。
「タバコなんか、止めればいいのに」
そう思うようになった。
勝手なものだ。

「タバコ、吸っていいですか?」

そう聞かれる時がある。
だが、

「ダメです」

と強行に拒否するのは難しいものだ。

「吸ってもいいですよ。ただ、煙りを吐いちゃダメですよ。
 もう、吸うだけ。全部、吸っちゃってください、
 ぐふふふ」

永六輔先生ならではの絶妙な返しを思い出す。

喫煙者だった頃は、煙りが臭いなどとは思いもしなかった。
むしろ好い香りにすら思われたのだ。
吸わない人への配慮など皆無で、どこでも煙り、
臭いを巻き散らしていた。
遅まきながら、反省しきりの昨今である。
勝手ですみません。

車に乗っていると車道を走る自転車、赤信号でも渡る
歩行者をジャマに思う。
自転車に乗っていると歩行者をうっとうしく思い、
歩いていれば自転車の横暴、車の横柄に腹が立つ。
やはり、勝手なものだ。

最近、自転車の暴走を目にすることが多い。
歩道を猛スピードで走り、そのまま車道を斜めに横切り、
信号無視し無灯火で耳にイヤホン携帯で通話、
メールも走りながらチェック。
逆走も当然のように堂々たるもの。
あまりに逆走する自転車が多いので、
こちらが逆走なのかと疑ってしまう。
僕は逆走や通話しながら乗ったりしないが、
法令をしっかりと遵守しながら自転車に乗っているとは
言えない。
僕も自転車に乗ると勝手な人間になるようだ。

なぜ、自転車に乗ると勝手になるのか、
僕なりに考えてみた。
理由はただひとつ、罰則がほとんどないことが問題なのだ。

車で違反をすれば、重い罰則も高額な罰金も免れない。
ところが、今のところ自転車は取り締まりの対象には
なっていないかのように自由だ。
それゆえ、普段は大人しい人でも自転車で暴走し逆走し、
無灯火で携帯で話しながら走るという、
なんでもありの無法状態となるのだ。
僕なりの結論、人は罰則がなければ自分勝手になる。

マジシャンは紳士でなければならない。
紳士ならば、マナーを守らなければならない。
自転車に乗れば法令を遵守し、歩行者に優しくありたい。
マジックをする時には、

「マジックをご覧いただいても、よろしいでしょうか?」

そう尋ねることにしよう。
ただ、

「いえ、マジックは今は見たくないです」

そう答えられても、

「ほんの少しだから、我慢して見なさい」

と無理強いするかもしれないが。

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2011-12-11-SUN
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