MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『カタカナ用語解説』

敬愛するモノマネ漫談の堺すすむ先生の持ちネタに、

「サンタクロースと大黒様が
 柔道対決をしました。
 どっちが勝ったかな?」

というような謎掛けがある。
賢明なるほぼ日読者の皆さまは、
答えをお分かりだろうか。

私はこの謎掛けをステージの袖で聞きながら
答えが分からず、
必死になって考えていた。
すると、答えが次第に見えてきて、

「どっちが勝ったかな?
 どっちがカッタカナ?
 どっちがカタカナ?
 
 分かったぁ!
 サンタクロース!」

思わず袖で叫んでしまった。
堺すすむ先生は苦笑いを浮かべながら、

「おいおい、
 謎掛けは前で見てるお客さんにやってんだから、
 袖にいる同業者は答えちゃダメ」

私は大いに反省するのであった。

さて、今回は我が業界の
カタカナ専門用語についての深い考察であります。


『ケツカッチン』

いったい誰が言い出し、
いつ頃に定着したのだろうか。
ケツ、お尻が、ひとつの仕事終わりで
すぐに次のスケジュールが
かっちり、カッチン決まっている、
つまりは次の仕事がつっかえて
いるという意味である。

「すいません、今日はケツカッチンなので
 お先に失礼します」

というように用いる。

ある日、私は札幌市内のホテルの宴会場にいた。
太神楽の海老一染之助・染太郎先生が、

「すいません、
 ケツカッチンなんで
 お先に上がらせてもらいます。
 申し訳ありません、
 うっふっふっふ」

そう言いながらステージに上がった。
1本前の飛行機に乗らないと、
都内の夜の仕事に間にあわないらしい。

「お時間がございません、
 お時間がございません」

お時間がないのは先生たちだけで、
観客はたっぷり時間があるのだが。

「お時間がございませんので、
 これだけご覧いただいて」

いつもはトリネタのはずの、
土瓶をキセルの上に乗せる曲芸を
いきなり始めるのだった。
しかし、あまりに慌てているために
あわれ土瓶は落ちてしまった。

「土瓶が落ちて損をする、
 ドビンソン・クルーソー。
 おめでとうございま〜す!」

そう叫びながら、先生たちは去って行った。
この間たったの5分、
後には観客の呆然とした顔だけが残った。


『パクリ』

人の持ちネタを盗むこと。

かつて、日本のマジシャンは
西欧のマジシャンのオリジナルを盗み放題だった。
日本のマジシャンは盗作を悪いこととは思わず、
西欧のマジシャンは
盗作されていることを知らずにいたのだ。

ところが今や、様々なメディアに
すぐさま映像が流れる時代となり、
パクリは簡単にバレるようになった。
そこで、マジシャンは
パクリを上手にカムフラージュする作戦に出た。

「この間、YouTube見てたら
 マジシャンの◯◯が
 面白いマジックをやってたんですよ。
 こんな風な・・・」

パクリを引用に見せるという、高等技法である。
また、インスパイアーとか
オマージュなどという技法もある。

「私の尊敬するマジシャン、
 △△の素晴らしいマジックを紹介しましょう!
 △△に捧げるオマージュです」

単なるパクリが、
なにやら崇高なパフォーマンスに思えてくるから不思議だ。


『ドタキャン』

もう一般用語にもなっているかもしれない。
土壇場でキャンセルすること、縮めてドタキャンである。

私は世田谷のスタジオにいた。
夕方には終わるはずの収録が一向に終わらない。
B先生の演出は厳しく、何度も撮り直しが続いた。

「こうなったら、夜中まで何回でも撮り直しだ」

だが、私には夜にA先生のパーティに出席し、
マジックを披露する約束があった。

「すいません、
 僕は夜にはA先生との約束があって‥‥」

そう告げたのだが、B先生は怒って、

「お前、オレとあっちとどっちを取るんだ?
 えぇ?
 あっちを取るんなら、お前の将来はないと思え」

私はついに、A先生との約束を
ドタキャンせざるを得なかった。

翌日の朝、私はA先生の自宅を訪ね、
ただただ頭を下げ続けた。
A先生は私を見ず、話すこともなかったが、
その横顔は怒りで紅潮しているのだった。

無理もない、これまで温かく接してくれたA先生に
ドタキャンを食らわせるという大罪を犯したのだから。

「ねぇ、こんなに謝ってらっしゃるんだから‥‥。
 よほどのことがおありになったのよ、きっと。
 ねぇ、もう許してあげなさいよ」

心優しき奥様の口添えで、
私のドタキャンは執行猶予付きとなった。

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2011-11-27-SUN
BACK
戻る