MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『ひとりじゃ生きられない』


マジシャンが観客の中からひとりの女性を選び、
ステージに上げる。

女性を用意された椅子に座らせ、自分も座る。

ここでおもむろにマジシャンは宣言する。

「貴女に念を送ります。
 すると、貴女は決して
 ひとりでは立ち上がれなくなります」

マジシャンは念を送る仕草を続け、

「さぁ、これで貴女はひとりで立ち上がれません。
 どうぞ試してみてください」

女性はごく普通に椅子から立ち上がる。

その瞬間、マジシャンも同時に椅子から立ち上がり、

「ホラ、どうです?
 決してひとりでは立ち上がれなかったでしょう?
 (立ち上がったのは私と貴女の二人)」

このジョークは、別なバージョンも考えられそうだ。

『決してひとりではビールを飲めない』

『決してひとりではケーキを食べられない』

いかがだろう?


ラスベガスに、多くの動物が登場する
マジックショーを観に行った。

さすがラスベガス、ライオンや象、
意外に大きい水牛などが惜しげもなく登場する。

檻の向こう側でしか見たことがない動物たちが、
目の前を闊歩するのだ。

ホワイトタイガーが登場してきた。

あらためて野生を感じさせるように、
大きく吠えた。ホワイトタイガーが箱に入る。
その箱が宙に吊り上げられ、
宙でバラバラに分解される。

もう、ホワイトタイガーはどこにもいない。
あの巨体を軽やかに躍動させていたホワイトタイガーは、
観客の目の前でこつ然と消えてしまったのだ。

あまりの迫力、それに負けない不思議さ。
消えたはずのホワイトタイガーは、
観客席の真上の棚に瞬間移動していて、
今度は猫のように小さく吠えている。

ホワイトタイガーが再び箱に入った。

巨体は箱に収まるのだが、
1m以上はありそうなシッポは箱の外に垂れたままだ。
このまま箱のフタをが閉まると、シッポが挟まってしまう。

すると、箱の横にいた人が
優しくタイガーのシッポを箱にしまい込むのだった。

彼は、この後もタイガーのシッポを仕舞い続けた。
タイガーは、自分で自分のシッポをしまえないのだった。

どうしても、このおじさんの手助けが必要なのだ。


大物俳優さんが舞台でマジックをしたいという。

「なんかさぁ、
 世界にないような今まで見たことないような、
 大ネタをやりたいんだよ」

私はない知恵を絞り、
『お神輿イリュージョン』なるものを考案した。

大勢の男衆がお神輿を担いで舞台に登場する。

「わっしょい、わっしょい」

お神輿には四方に細い柱と天井があるのみで、
誰の姿も見えない。
お神輿が舞台中央にさしかかると、
男たちが大きな団扇を派手に振りながら近づいてきた。

大きな団扇でお神輿が覆われた。
一瞬のうちに団扇が外されると、
なんとお神輿の中に大物俳優さんの勇姿が!

真っ白な着物姿で、いなせに片膝を立てている。
観客から悲鳴とも思われるような歓声が上がる。
大物俳優さまがお神輿から降りようとする。
その瞬間、若い男がふところから草履を出し、
お神輿の前に並べた。

諸般の事情で、大物俳優さまは
裸足の大物さまだったのだ。

若い男が草履を用意してくれることによって、
いなせで粋な『お神輿イリュージョン』は
完成するのであった。


マジシャンは、一組のトランプを観客のひとりに渡した。

「どれでもいいですよ。
 貴女の自由に、トランプを一枚選んでください。
 私は後ろを向いていますから、
 お客さまにはトランプを見せてあげてください」

マジシャンは前に向き直り、
トランプを選んだ女性に視線を向けた。

と、その時、客席のはるか後方で、

「ハートの3です」

とつぶやく人がいた。

その声は無線で
マジシャンの耳の奥の受信機に届けられ、
めでたくトランプは透視されるのであった。


初代・引田天功先生のキャンピングカーで
地方公演へと向かった。
車には、知らないおじさんが乗っていた。

車は無事に目的地に着き、
公演も好評のうちに終了した。

さて帰りましょうと車のエンジンをかけようとした。
だが、エンジンはウンともスンともいわない。

すると、あの知らないおじさんが
車のボンネットを開け、
慣れた手つきで修理を始めた。

知らないおじさんは、
初代・引田天功先生のキャンピングカー専属の
修理屋さんだったのだ。

初代・引田天功先生には
6、7人のお弟子さんがいた。

彼らは天功先生の仕草をそっくりマネていた。
そりゃもう、そっくりだった。

今は、彼らの姿を見ることはなくなってしまった。
彼らは、どこに消えてしまったのだろう。


美女がひとり箱に入る。
マジシャンが宣言する。

「さて、この箱に入った美女は、
 向こうに吊り上げられている箱に瞬間移動します。
 すると、皆さんは思うでしょう、双子だと。
 私は誓います。
 双子は使っていません!」

瞬間移動は見事に成功し、
楽屋に戻った『三つ子』の美女たちが
ニッコリと微笑むのであった。

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2011-09-04-SUN
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