MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『儚さと永遠と』


久しぶりに『笑点』の収録が入った。
日本テレビ系列の人気番組であり、超長寿番組である。
今や数少ない演芸番組であるが、
レギュラー・メンバーの皆さんに言わせると、
「『笑点』は教育番組です」
確かに、様々に人生の機微を学べる
貴重な教育番組なのかもしれない。

収録は通常、水道橋の後楽園ホールで行われる。
駅の周辺の多くの競馬ファンたちの横をすり抜けて、
ホールがある黄色いビルに向かう。
ビルのエレベーター前に到着すると、
今度は競馬ファンではなくて
熱狂的な『笑点』ファンが列をなしている。

彼らはレギュラー・メンバーの楽屋入りを待ち、
師匠たちの姿を発見するやいなや、
エレベーターのドアを開けて待つのだ。
「お疲れさまです!」
元気な声で見送りつつ、
閉まるエレベーターに深々と頭を下げるのだ。

私は当初、この人たちが単なるファンとは思わず、
テレビ局のスタッフだと信じていた。
それほどに対応きめ細かく、また手際良いのだ。

私も、エレベーターの前に着いた。
いつもの人たちが、
「ご苦労さまです!」
と声をかけてくれ、数人の人が色紙を差し出し、
写真を撮ったりする。
私がサインを終えると、
彼らは急いでエレベーターのドアを押さえ、
再び、
「ご苦労さまです!」

聞くところによれば、このファンの中には
『笑点』が始まった頃から
後楽園ホールに通っている人もいるという。
レギュラーメンバーのある師匠によれば、

「だからさぁ、
 オレたちより多くホールに来てるんだよ。
 だってね、出演者は時々交代したりさ、
 レギュラーだって病気で
 3、4日は休んだりしてるだろ。
 ところが、あの人たちは休まず病気もせず
 通ってるんだよ。
 だからさぁ、『笑点』の本当のレギュラーは
 あの人たちだってぇわけだ」

『笑点』という番組は、もう45年も続いている。
その理由のひとつは明確で、視聴率が良いからだ。
ごく普通に20%を超えていたりする。
普通の番組なら、一度でも20%を超えれば
金一封が出るかもしれない。
それほどの高視聴率を、
ほぼ毎週のように獲得しているのだ。

近年はネット等の影響からか、
視聴率の高い番組が減少しつつある。
そんな状況の中で、コンスタントに
20%前後を維持しているのだから、
まさにお化け番組なのである。

私たちが出演した際も、
視聴率が20%を超えたことが幾度もある。

だが、それで大喜びとはいかず、
やっとノルマをクリアーした気分になる。
万が一でも視聴率が12、3%だったりしたら、
関係者に土下座して詫びなければいけない、
そう思い詰めてしまうほどだ。

幸いにも、これまでは20%前後の視聴率を
いただいてきた。
だが、毎回毎回、出演する度に、
「なるべく高視聴率でありますように」
神仏に祈るのみである。

『笑点』という番組名は、
当時人気だったドラマ『氷点』のパロディであるという。
実に驚きである。
いまや『笑点』以外は考えられない、
実に見事な番組名ではないか。
『お笑い座布団バトル』とか『大喜利ショータイム』
などという番組名だったら、
これほど長寿番組になりえただろうか。

『笑点』という番組を企画し、最初の司会者であった
立川談志師匠の発案であったと聞く。
さすがと感心しきりである。

私たちは、大喜利の前の演芸コーナーに
多く出させていただいている。
しかも、数多の演芸家、芸人さんたちを抑えて
『笑点』出演回数堂々の第一位!

「そりゃぁ、面白いからに決まってるでしょう」

そう言いたいのだが、実のところはよく分からない。
ちなみに2位がケーシー高峰先生、3位は牧伸二先生。
いずれも大ベテランの芸人さんである。

余談であるが、牧伸二先生の以前のマネージャーは、
業界では知らぬ人のいないほど有名なTさんであった。
Tさんはいつも牧先生に叱られて、いつもぼやいていた。

「マイク忘れただけで怒るんだよ。
 ウチの師匠」

だが、誰にも同情されはしない。
Tさんの主たる仕事は、
舞台にマイクをセットすることだけなのだから。
『笑点』の楽屋周辺では、決して放送では見られない
人間模様も繰り広げられているのだ。

さて、今回の我々のマジックは立体映像、
3D時代を先取りする自家製立体跳び出しトランプ、
初代・引田天功先生直伝!? の人体浮揚術、
野菜を使ったテレパシーの実験『当てやさい』、
現代の七不思議のひとつ
『あったま・グルグル』であった。

収録が終わり、私はホールの外に出た。
水道橋駅を通り過ぎ、商店街をぶらぶらと歩いた。
『笑点』の収録後は、なぜかこの道をたどってしまう。
テレビ番組という、映っては消えていく儚さと、
『笑点』という、永遠とも思える日々を振り返りながら。

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2011-07-17-SUN
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