MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『夢の中のマジシャン』


『チャリティ・カット』

美容室の入り口に、

『ただ今、チャリティ・カットやってます!』

と書かれたチラシが貼られていた。

店に入って聞くと、
カット料金はすべて寄付されるという。
髪はサッパリとするし、
募金もできて一石二鳥ではないか。

私は、そのチャリティ・カットをお願いすることにした。

チャリティ・カットの場合は、
すべて美容師さんにお任せなのだという。
普段なら長めだとか短めだだとか注文するのだが、
お任せというのも悪くないではないか。
ひょっとしたら、いつもとは違う
斬新なヘアー・スタイルに
してもらえるかもしれない。

「チャリティ・カット、終わりましたよ」

美容師さんの声で目が覚めた。
いかんいかん、
カットが始まってすぐ眠ってしまったようだ。
私はまだ眠い目をこすりつつ、鏡に目をやった。

鏡には、ほとんど丸坊主になった私の頭が映っていた。

私はまだ眠っていて夢を見ているのではと、
再び目をこすって鏡を見た。
だが、やはり私の頭は
高校生の頃以来の坊主頭になっていた。

「なにこれ、チャリティ・カットって、
 坊主頭のこと?」

私は唖然として、
まるで鏡の中の自分に語りかけるようにつぶやいた。

すると、私の坊主頭の後ろから顔を出した美容師さんが、

「そうなんですよ。
 チャリティ・カットだから
 ウチも儲けはないんですよ。
 儲けはない、もう、毛はない。
 なんちゃって」

私は立ち上がり、

「ふ、ふ、ふざけるんじゃない!」

と、叫んだところで目が覚めた。
あぁ、変な夢を見たものだ。


『マジック番組を見たい!』

私はマジシャンである。
従って、研究用にすべてのマジック番組を
録画しておくことにしている。

海外のマジシャンでも日本のマジシャンでも、
とにかく録画してお手並みを拝見、
あるいは研究対象にしたいのである。

しかし、番組表を懸命にチェックしていても、
ついつい見落としてしまい、
録画できないこともある。
釣り落とした魚は大きいの例え、
録画できなかった番組ほど
興味深いマジシャンが出ていたりして、

「ねぇ、この間のマジック、見た?
 すごかったよね」

などとマジック仲間に言われ、
辛い思いをすることも度々だ。

「録画し損ねて、見られなかったんだよ」

などと言おうものなら、

「へぇ、そりゃ残念だねぇ。
 残念どころか、マジシャンとしては致命的なミスかもね。
 仕方ない、オレの録画を貸してやるよ、1万円で」

などと、人の傷に塩を塗られかねない。
実に悔しいではないか。

そこで、私は頼もしい録画機器を導入することにした。
とにかく、マジックというキィ・ワードを入力しておけば、
後は機器が勝手に録画してくれるというものである。

これならば、録画を忘れたり、見落とすこともない。
放送されたマジック番組はすべて、私のものになるのだ。

「へぇ、録画してなかったの?
 貸してあげてもいいよ。
 ただし、1万円で。あはははは」

いつも悔しい思いをさせられているマジック仲間に、
嫌みのひとつも言い返してやれるだろう。

仕事ですっかり遅くなって帰宅した。
録画機器を見てみると、
すでにずいぶんと多くの番組が録画されているようだ。

はて、このところ、
そんなに多くのマジック番組があったのだろうか。

さっそく、録画された番組をチェックしてみた。
始めに録画された番組は、なぜかサッカー中継であった。
延々と録画されてはいるが、
当然ながらサッカーの試合が映っているのみで、
マジシャンなどひとりも出てこない。

次に録画された番組を見てみた。
今度はプロ野球中継ではないか。
今まで、プロ野球中継にマジシャンが出てきて
マジックをやったことなど、一度も聞いたことがない。

だが、万が一ということもある。
私はゲーム・セットまでプロ野球中継を見続けた。
マジシャンは誰ひとり出てこなかった。
白いハトが飛んでいるシーンがあって、
慌てて凝視してみたものの、
ただ単にハトが電光掲示板の上に止まっただけであった。

おかしい、なにかが変だ。
私は番組情報をチェックすることにした。

すると、始めに録画されていた番組欄に、

『ザック・マジック炸裂か!
 オール・ジャパン出陣』

とあり、次の番組欄には、

『伝統の一戦!
 いよいよ今夜、マジック点灯か!?』

と書かれていた。
私は録画機器の電源コードをコンセントから引き抜いて、

「ふ、ふ、ふざけるんじゃない!」

と、叫んだところで目が覚めた。
あぁ、変な夢を見たものだ。

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2011-05-08-SUN
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