MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『春本番』


春1番

二代目江戸家小猫襲名披露公演にゲスト出演した。

長き闘病生活というブランクを乗り越えての二代目襲名、
実に目出たいではないか。
しかも、数ある芸人の中から
我々ナポレオンズをゲストに指名するとは、
なんという眼力の持ち主であろう。

私は、高座で祝福のトークを展開した。

「先日、東北の友人に送る荷物をコンビニに持って
 行ったんです。でも、
 『そこは、まだ届けられないです』
 と、受け取りを断られてしまいましてねぇ。
 でも、近所の宅急便は引き受けてくれて、ちゃんと
 二日後に届いたんです。
 私は思いましたね、これからは黒猫と小猫の時代だと」

やや、ではあるが、ウケた。
嬉しかった。


春2番

終演後、ロビーでTシャツを売るお手伝いをした。
売り上げの一部は救済募金となると聞き、
私は高座以上に声を張り上げて販売に貢献しようとした。

しかし、Tシャツのサイズを間違えて渡そうとしてしまい、
一緒に売り場に立っている小学生の男の子に、

「それ違うよ、Lサイズはこっちだよ」

何度も注意されてしまった。
今頃、

「あれれ、このTシャツ、小さいねぇ」

などと苦情が出ていないことを祈るのみである。


春3番

「自粛を自粛しよう!」

と、ネットでつぶやいてみた。
すると、多くの皆さんから共感をいただいた。

「自粛は、難を避けられた人たちの自己満足かも」

という意見もいただき、なるほどと思った。
そりゃぁ、被災した方々が更に悲しむようなイベントは
止めるべきだが、通常のイベントは
人を楽しませるためのもの、自粛してはならないと思う。

「小石さん、チャリティーと名称は変更しましたが、
 予定通りイベントをやりますよ。
 例のネタ、グルグルをよろしくお願いしますよ」

そんな嬉しい電話をいただいた。
私の代表作、あたまグルグルに自粛は似合わない。
グルグル、グルグル、いつもより余計に回そうと思う。


春4番

私は左利きである。
それゆえ、左利きの人を見たりすると嬉しくなる。

最近ではテレビのCMなどに左利きの人を多く見かけて、
勝手にシンパシーを感じている。
CMで美味しそうにうどんを食べている、
あの彼も左利きだったんだ。

ボウリングのボールを左手で投げているアイドルもいる。
牛丼を食べている女性も、左手に箸を持っている。
CMではないが、現役時代、アイドル並みの人気を誇った
相撲の親方もちゃんこを左手で食べていた。

以前はCMに出る場合、左利きの人であっても
右手で食べるよう強制されていたらしい。
左手でご飯を食べたりするのはみっともないとさえ
思われていたという。
ところが今や、左利きのタレントやアイドルが堂々と
左利きのまま映っているのだ。
ただ、テレビで見かける左利きの皆さんが、
私が思うに相当に個性的な方々ばかり。
私もやはり個性的なのだろうか。

「個性的というより、変わり者だね」

そんな友人たちの声が聞こえてくるようだ。


春5番

酔っ払ったので、タクシーで帰宅することにした。
いつものルートなのに、
この日はものすごい渋滞だった。
長らく止まったまま、車は一向に進む気配がない。

「お客さん、私はここらをあまり知らないのですが、
 どこか迂回する道はないですかねぇ」

そう言われても、私も他のルートで帰ったことがない。
だが、渋滞の列は増々伸びている。

「運転手さん、思い切って左の道に行ってみましょう」

すると、運転手さんは待ってましたとばかりに、

「チャレンジしてみますかぁ」

タクシーは左折して見知らぬ道を走り出した。
入った道はどうやら商店街のようで、
レストランやラーメン屋さんが軒を連ねている。
なんだか楽しそうな道ではないか。

しかし、あちこちに立ちはだかる進入禁止のマークが
タクシーの行く手を阻み、
とうとう元の場所へと戻ってしまった。
私は心の中でつぶやきを繰り返した。

「おもしろうて やがて悲しき 迂回(鵜飼)かな」

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2011-04-10-SUN
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