MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『リンゴの木の下で』


『白、黒、抹茶、上がり(あずき)、
 コーヒー、ゆず、桜』

何のことやらさっぱり分からない方も多いだろう。
あるいは、突然脳裏によみがえる方もおられよう。

この何かのおまじないのような言葉は、東海地方で
流れていた『ういろう』というお菓子のコマーシャルに
出てきていたもので、『ういろう』の味の種類を
言っているのだ。
子供の頃に聞いてすっかり覚えてしまい、
今でも完璧にそらんじることができる。

『DHA=ドコサヘキサエン酸』、
『EPA=エイコサペンタエン酸』は、
ある番組の収録で覚えなければならなかった用語だ。
収録が終われば忘れていいのに、
なぜか脳に深く刻まれてしまい、
時々脳みそが勝手に復習しているかのように
脳裏に浮かんでくる。
忘れたいのに忘れられないのである。

『インドメタシン』という言葉も、
やはりコマーシャルで度々聞いているうちに
覚えてしまった。

『白、黒、抹茶、上がり(あずき)、
 コーヒー、ゆず、桜』、
『DHA=ドコサヘキサエン酸』、
『EPA=エイコサペンタエン酸』、
『インドメタシン』、

今も忘れないままだ。
それどころか、時々復唱しては、
「ふむふむ、まだ覚えている」
私の脳は自画自賛さえしているのだ。

しかし、これらはまったく生活に
役立つことのない知識である。
今まで、これらの言葉を覚えていて、
「いやぁ良かった、助かった。
 ドコサヘキサエン酸を覚えていて救われたよ」
などという場面など一度もない。

むしろ、これらの言葉を完全に消去して
新たに有効有用な知識を貯えるべきと思う。
あるいは、空いた脳のスペースに
新しいマジックのひとつふたつ刻む方が
どれほど人生に役立つことか、とも思う。

幼少の頃から、私は学習する、覚える、
記憶するという訓練を重ねてきた。
だが、忘れるという訓練はしてこなかった。
自然に脳が忘れる、思い出せないということは
しょっちゅうだが、
「さぁ、今からこれとこれを忘れるぞ」
ということは、したことがない。
忘れる、記憶を消去するという訓練は
したことがないのだ。

ゆえに、今も、
『エルムズレー・カウント』、
『じゅげむ、じゅげむ、ごこうのすりきれ‥‥』、
『クワイ・チャン・ケイン』
などという、役立ちそうもない言葉、
知識を保ち続けている。
困ったことに、私の脳はあまり有効有益でない知識ばかりを
選んで記憶しているらしい。

最近、『慣性の法則』という言葉が何度も浮かんでくる。
広辞苑によれば、
『物体の運動に関する基本的な法則。
 普通、ニュートンが初めて確立した
 運動の三法則のひとつを指す。
 静止または一様な直線運動をする物体は、
 力が作用しない限り、その状態を維持する』
とある。

本来の意味は違うのだろうが、私には、
『停止、あるいはこれまでと同様なマジックをする脳は、
 力が作用しない限り、その状態を維持する』
そう言われているような気がしてならない。

私は、これからも未来永劫に続くとばかりに
頭をぐるぐる回し続けるのだろうか。

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2011-02-27-SUN
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