MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『新説・幸せへの100人』


幸せになりたい。
あまり大きな幸せだと、
喜びのあまり飛び跳ねて
足をくじいたりすると痛いので、
小さくていい。

幸せといっても、
人それぞれに望むものが違う。

「お金が欲しい。
 幸せへの1歩はお金に決まってるよ」

だけど、すごい大金が入ったりすると、
知らないうちに親戚やら親友やらが増えに増え、
最悪の場合、金を奪われた上に
殺されてしまうかもしれない。
まぁ、宝くじで10万円が当たるくらいの幸せがいい。

「愛している人がいます。
 その方と相思相愛になれたら、
 とても幸せになれそう」

愛している相手と自分が
お似合いならばいいのだけれど。
自らの不出来、容姿などを棚上げにして、
無理な相手を恋い慕うこともある。

だが、そんなアンバランスな恋が成就するのは
ドラマ、映画の世界だけである。
現実は厳しいのだ。
ここはひとつ、好きな人から
パーティへのお誘いメールが届いた!
くらいの幸せで満足したいものだ。

「仕事をがんばって出世するか、
 成果を上げて名誉を得たいです」

意外と身近で確実性の高い幸せに思える。
まじめに働き続けられれば
自然と手に入りそうな気もする。

ただ、幸せへの道のりが長いのが難点だ。
最低でも10年? 20年? それとももっと?
しかも、現代は何が起きるか分からない時代である。
まずは5年、まじめにがんばろうと
気合いを入れていたら、
会社が3年で倒産したりして。
働く場があること、会社があること、
自分の机があることに、
小さな幸せを見出すべき時代なのだろうか。

さて、マジシャンの幸せは単純である。

「観客がビックリするのを見ると、幸せです」

もう本当に、ただそれだけで生きている。
もちろん、まずは驚いてもらうという
マジシャンとしての幸せを重ね、
テレビ等に出て知名度を上げ
高いギャラをもらう幸せへと、
長く険しく道は続くのであるが。

マジシャンの幸せの第一歩、
観客がビックリするマジックを手に入れるのは、
さほど難しくはない。
少しマジックを習い覚えれば、
かなり不思議な現象を見せられる。

デパートの手品売り場へ行けば、
実に様々なマジック用品を売っていて、
不思議なタネ仕掛けがすぐに手に入る。

ところが、簡単に手に入るマジシャンの幸せ、
不思議なマジックは
効果が消えるのもまた早く、

「へぇ〜、不思議だなぁ。
 それで、次は?」

観客は道具に驚いているだけで、
次々と新しい道具を要求する。
これでは、マジシャンの小さな幸せも
指先からスルリと逃げていく。
やはり、手っ取り早く
小さな幸せを得られるマジックなど、
買えるものではないのだ。

最近、『幸せへの100人』という説を唱えている。
私はどのようなマジックを演じる時も、

「私の幸せは、
 面白いマジシャンになることです。
 どうか皆さん、私がそうなれるように祈り、
 応援してください」

と話しかける、
あるいは心の中でささやきながら見てもらうのだ。

いわゆる、私の得意とする他力本願である。
観客の中のほんの一部の方々でも、

「しょうがないなぁ。
 自分の腕じゃなくて客頼みかぁ。
 でもマジシャンが頼んでるんだから、
 祈ってやるとするか」

こういう奇特な皆さんが100人になり、
心の中で芸の上達を祈ってくれれば、
いつの日にか、ちょっと面白いマジックを見せる
マジシャンになれそうな気がするのだ。

100人に認めてもらい、祈ってもらうとなると、
あまりいい加減なこともできない。
懸命に考え、頭をひねり、
自分だけのネタを考えなければならない。
そうした準備をして、ひとり、
またひとりと獲得していくのだ。

「ない知恵を絞り、
 自分なりの努力をあちこちで見てもらって
 100人に応援してもらえば、
 自然と才能とかセンスも
 少しは付いてくるはずではないか」

これが、私の『幸せへの100人』説なのである。

誰しも、ひそかに望む幸せがあると思う。
その幸せを現実のものにするためには、
100人、いや10人でもいい。

「そうかぁ、それなら応援するよ。
 貴方の小さな幸せがいつか得られるように、
 祈ってあげる」

多くの人に成就を願ってもらえる幸せならば、
叶うべき幸せなのだから。

だが、マジシャンの場合は
あまり面白くないしゃべり、
技術ばかりに頼った不遜なマジックを続けていると、

「こいつの話はつまらんなぁ。
 マジックはおのれの技に酔ってるし、
 ダメなマジシャンだ」

たちまち100人に呪われて、
哀れマジシャンは不幸のどん底に沈むかもしれない。

『ほぼ日』読者の皆さまにお願いします。
今はまだ様々に迷い惑うマジシャンの私ですが、
いつの日か、
皆さまにも小さな幸せをお届けできるような、
面白いマジシャンになりたいと思っています。
そんな私を、時々は思い出していただいて、

「せっかく続けてきたのだから、
 もうちょっとがんばるんですよ」

と、心の片隅でチラッと思っていただきたいのです。

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2010-09-19-SUN
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