MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『33年目の奇跡、ひとり・ぐるぐる!?』


まだ暑さが残る8月22日の夕方、
私は経堂の
ライブ会場へと向かっていた。

私の親しい友人が経営する
この飲食店『さばの湯』では、
落語会や様々なジャンルの音楽会、朗読会などが
毎週のように開催されているのだ。

「小石師匠、いつか僕の店で
 ショーをやってくれませんか?」

「そうだねぇ、いつもやってる
 寄席に出たいなぁと思ってるよ。
 ほら、落語家さんたちの間に
 ちょいと出てきて何かやる、色物としてね」

色物とは、
寄席に出演する落語家以外の芸人を
意味する言葉だ。
漫談や漫才、コントやマジックなどは、
寄席では色物と呼ばれている。

寄席の入り口に掲げられている出演者の名札が、
落語家以外は赤や朱色で書かれているので、
色物と呼ばれるようになったらしい。

『笑点』に多く出演してきた我々は、
常に寄席に出ていると思われているが、
実はほとんど出演経験がないのだ。
通常は各地の会館、ホールで主催される落語会の
色物として出演することが圧倒的に多いのである。

だが、私はあの寄席の独特の雰囲気が好きなのだ。
また、落語を聴きに来た観客を
マジックで引きつけられた時の嬉しさも、
格別なものがあるのだ。
「しばらく落語会には出てないから、
 『さばの湯』の落語会に出してよ。
 色物として」


数日後、友人から電話があった。

「落語家は見つかりませんでしたが、
 すごいミュージシャンが
 小石師匠とライブをやりたいと言ってくれてますよ。
 やっぱり、たっぷり小石師匠の
 マジックをやりましょうよ」

大変なことになってしまった。
あの、流浪の鍵盤弾きを自称されている石黒彰さんに
『オリーブの首飾り』などを演奏してもらいつつ、
マジックをすることになったのである。

「落語会の色物だから、
 ちょこちょこっとマジックで
 お客さまのご機嫌をうかがえば、
 いいよね」

などとお気楽に考えていたのだが、
いつの間にか落語会はマジック・ライブへと
華麗なる変身を遂げてしまったのだ。

そうなれば、
私のただひとつのヒット・マジックである
『あったま・ぐるぐる』を、
是非ともやらなければならない。

しかし、マジシャンは私、パルト小石のみで、
私の頭を回してくれる役目の人はいないのだ。

「どうしよう、石黒さんに頼むにしても、
 かなり練習しなければならないし、
 石黒さんが嫌と言うかもしれない。
 どうする? 誰に回してもらうのだ?」

マジック・ライブは、もう明日に迫っていた。
私は、黄色の『あったま・ぐるぐる』の道具を
いつまでも呆然と見つめていた。

                  (つづく)

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2010-08-29-SUN
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