MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『信じたいけれど』


「貴方なら信じてくれると思うので‥‥」

届いた手紙には、
ある不思議な能力を持つ男について
長文の説明が書かれていた。

アジアの某国に、
ほぼ毎晩のようにコンセントから
身体に充電をしているという男がいるという。

男は、様々な病に苦しむ人々を
身体に溜めた電気を放電することで
治療するらしい。
日本でも、微弱な電気を流して治療する医療器具が
あるというのは聞いたことがある。
だが、それはあくまで医療器具であって、
人間の体内に電気を溜め、
それを少しずつ放電するというのは初耳だ。

「貴方なら、
 彼の不思議な能力が本物であると
 証明してくれると信じています」

私に、調べに行ってほしいというのだ。
ただ、先方の男には
面会にあたって条件があるという。

「身体に自然ではないもの、
 人工物を入れている者はダメ」

人工物入れた人間が近くにいると、
せっかくの特殊な能力を妨げてしまうというのだ。

残念なことに、私の口の中には
セラミックとか金属が入っている。
目にはコンタクトが入っている。
普段からサプリメントを飲んでいる。
食べている物の中にも、
人工物が含まれているに違いない。

向こうが電気男なら、こちらは人工物男である。
残念ながら、私は調査には不向きなのであった。

「あるアジアの国に、
 生まれ変わりの村があるのです。
 不思議なことに、
 村の住人のほとんどが
 前世のことを記憶しているのです。
 貴方なら、信じていただけると思い‥‥」

世の中には奇妙なこと、
信じられないような出来事は多々あることだろう。

日本でも、トンネルを抜けたら
乗っていたはずの若い女が消えていたとか、
夏休みの学校の教室に合宿していたらお化けが出て、
実は昔、そこら辺りはお墓であったなどいう話が
まことしやかに語られている。

だが、それらのほとんどは
都市伝説のようなものである。
およそ検証するまでもないことだ。

都市伝説には話半分というか、面白半分というか、
余裕のようなものがある。
それに対して、この生まれ変わりの村伝説は
奇妙に真剣なのだ。

みんな生まれ変わりとなると、

「あの馬鹿な男は、
 間違いなくあの馬鹿だった◯◯爺さんの生まれ変わり、
 なんて言ってるんですかねぇ」

などと茶化すと、確実に怒られそうな雰囲気である。
この生まれ変わりの村を検証してもいいのだが、

「条件があります。
 検証するのは、自身も生まれ変わりの人に限ります」

などと言われてしまいそうで。

手紙に、男が宙に浮いている写真が同封されている。

「こんな不思議なことが、
 この国では日常に起きているのです。
 これは、現代科学を完全に否定していると思います。
 いわゆる精神修行を極めると、
 世の中の常識を超えた現象も起きうると‥‥」

しみじみと写真を眺めてみれば、
ごく普通のマジックである『人体浮遊術』のネタに
乗っている男が写っているのであった。

信じている人、信じたい人、信じてほしい人がいて、
今日も不思議な手紙がマジシャンに届く。

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2010-07-25-SUN
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