MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『喜怒哀楽』


まったく、人間には様々な感情が渦巻いているもの。
小さな喜びと、大きな哀しみと。
ちょっとしたことに怒りを覚え、
些細なことに楽しみを見出す。
喜は楽となり、怒は哀となり、久しく留まることなし。

『喜』

実家のすぐ近くのお寺で、公演をすることになった。
客席の後ろの柱の陰で、
父と母が僕のしゃべりを聴いている。

「今日、実家を見に行ったら、びっくりしましたよ。
 なんと、父と母がまだ生きてるんですよ」

観客が笑うと、いつも父と母は周りに向かって深々と
おじぎをする。まるで、
「笑っていただいて、ありがとうございます。
 家の息子がバカなことを言って、すみません。
 でも、どうか今後とも
 この息子をよろしくお願いします」
とでも言っているように、長く深々と。

『怒』

ぼくのお父ちゃんはらくご家です。
どうやら、中けんと呼ばれている、らくご家らしいです。
仕事をいっぱいしたときは、
温泉とか海とかに2泊3日でつれていってくれます。
でも、ふ景気で仕事がおおくないと、
たった1泊であまりいいところに泊まれません。

今年の春休みは、

「いいかぁ、今年は不景気だから、
 あまり良いところには泊まれないからな」

泊まった部屋は小さかったです。
部屋が暗かったので窓をあけたら、そとはお墓でした。
海も山も見えませんでした。
政治家のみなさん、どうかよい政治をして景気をよくして、
父ちゃんの仕事をふやしてください。
そして、温泉があるか海や山の見える部屋に
泊まりたいです。
どうかよろしくお願いします。

『哀』

日本全国に、おそらく2千人以上の
アマチュア・マジシャンが存在する。
彼らは地域ごとにグループを作り、
ボランティア活動や発表会を開催している。
少なくとも1年に1回は主催するマジック・ショーには、
プロのマジシャンを招いて芸を見たり、技術を教わる
レクチャーを受けたりしている。
普段は、

「プロ・マジシャンは、いつまでもアマチュアを相手に
 商売してちゃいけないんだよ。
 アマチュアの財布を頼りにしてちゃぁ、ダメなんだよ」

などとうそぶいたりするプロ・マジシャンも、
アマチュアの大会に呼ばれれば喜んで参加する。
プロならではの技術や演出を誉められる上に、
ギャラまでいただけるという、
実にありがたい仕事なのだ。
この状況をマジック業界では、『アマ下り』と言う。

『楽』

美味しいイタリアンの店に行った。
お腹がすいて、あのアスパラガスのサラダや
チーズのパスタを想うとたまらなかった。
ところが、店先に『CLOSED』の看板。
それでも諦めきれず店内を覗くと、
いつものスタッフの皆さんが
忙しそうに動き回っているではないか。

「あの、今日は休みですか?」

との問いかけに、

「いいえ、開いてますよ」

私は困惑しつつも、

「でも、『CLOSED』の看板が外に」

「あちゃぁ、ひっくり返すのを忘れてました。
 どうりで今日は
 誰も来ないなぁと・・・」

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2010-05-09-SUN
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