MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『導いてくれる言葉』


「お客さまは常に正しい」

観客の目の前で演じるクロースアップ・マジックの
スペシャリストであり、
指先の芸術家とも称されるM氏の言葉。

ステージ・マジシャンの私は、
何百人という人に向かって語りかけている。
特定の観客に話しかけているわけではない。
ゆえに、老人ばかりの客席を見回して、

「今日のお客さまとは関係のない話ですが、
 日本は高齢化社会です。
 年寄りばかりが佃煮のように・・・」

などと言っても怒られないできた。

ところが、クロースアップとなると
1対1で話しているようなもの。

言葉のやり取りいかんでは、
不協和音が響きかねないのだ。

お客さまの中には、
「今の右手が怪しい」
だの、
「もう1回やってくれれば見破れるよ」
などと言う人もいる。
私ならば、
「お客さまの方が怪しいですよ。
 もう1回? イヤです」
などと応えるところだが。

M氏の穏やかで優美な対応を見つめながら、
感心しきりの私である。


「面倒だから、信じたら信じっぱなし」

何年も前のこと、
私が居候していた家の奥さんの言葉。

出会った時は好印象だったのに、
時が過ぎるにつれて
評価を悪く変えたりするのが人間だ。

最高と褒めたり、最低と罵ったり。
ところが、

「人を殺めたりしたらダメだけど、
 この先ずっとあんたは
 良い人だと決めちゃったからね」

決められちゃったら仕方ない、
なるべく良い人でいようと努力する私であった。


「言葉を話すのは人間だけ。
 だから、よぉく考えて
 話さなくてはいけませんなぁ」


敬愛している先輩芸人、S氏の言葉。

「何も考えずただベラベラとしゃべるのは、
 ただのウソつきになるだけですから」

心にもない言葉は簡単に出てくるもの。
それが、相手を思って話そうとすると、
ウソの言葉すらなかなか出てこないものだ。
良いマジシャン、ウソつかないのだ。


「楽しんでやらなくちゃ」

人気落語家のK師匠の言葉。
師匠は多忙な仕事のかたわら、

絵本制作まで始めたという。

「あぁたも、
 マジシャンが主人公の絵本を書きなさいよ。
 きっと面白いものができるよ。
 ただしね、楽しんでやらないとダメだよ。
 苦しんで作っても面白くならないから。
 落語だってマジックだって、
 楽しみつつだよ、ふふふ」

お客さまを楽しませるには、
まず自分からですよね、師匠。


「事務所を辞める時は、もめたらダメだよぉ」

ずいぶん以前のこと、
当時所属していた事務所を辞めて
別な事務所に移ることになり、
先輩マジシャンに相談をした。
その際、先輩にいただいた言葉。

事務所を移るとなれば、もめ事になることが多い。
先輩マジシャンのアドバイスは、
すでに興奮していた私を
冷静にしてくれたのだった。

ところが、先輩マジシャンが移籍する時は
大変にもめたという。
私が、いただいた言葉を
返してなかったからだろうか。


「マジシャンは、
 マジックという馬に乗っている
 ジョッキーだね」


競馬好きの税理士さんが、
Barで飲みつつつぶやいた言葉。

馬もそれぞれに違った個性があるだろう。
手綱を操りつつムチを入れつつ、
力を最大に発揮させなければならない。

それができなければ、まさに後塵を拝すことになる。
さて、目利きの税理士さんは、
私という馬券を買ってくれているのだろうか。


「落語てぇものは、
 お客にくすりと笑ってもらえりゃ
 いいんだよ」


生前、楽屋で聞いた名人の言葉。

無駄に入っていた肩の力がすぅ〜っと抜けましたよ、
師匠。

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2010-04-04-SUN
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