MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『滑る』


冬期オリンピックでは、
様々な競技に分かれてメダル争いが
繰り広げられている。

どの競技も興味深いのだが、
特にフィギュア・スケートに
特別の思い入れをしつつ見つめていたマジシャンは
多いはずだ。

なぜなら、フィギュア・スケートという競技が
マジック・コンテストと実によく似ているからなのだ。
私は、自身が1歩だって
滑ることができないにもかかわらず、
完全にフィギュアの選手になりきって見てしまう。

オリンピックは4年に1度、マジック・コンテストは
3年に1度という違いはあるが、
やはり世界中から予選を勝ち抜いた挑戦者たちが
同じリンク、ステージで技を競い合うところは
まったく同じなのだ。

フィギュア・スケートでは、
最初にショート・プログラム、
後にフリーの演技が行われ、その合計点を競う。
ただ飛び跳ねる体力だけでは高得点は望めない。
美しく優雅に滑るだけでも、上位には昇れない。
そのあたりも、マジック・コンテストと同様なのだ。

技術が秀でていれば良いというわけではなく、
いくら演出が見事であってもいけない。
技術的にも優れ、高い芸術性をまとい、
たった8分の間に観客を幻想の世界に引き込まなければ、
マジックの世界の頂点には立てないのだ。

このように書いていて、
私たちがマジック界の頂点に君臨できなかった
ひとつの理由が今、分ったような気がする。
私たちは技術はまぁまぁ、クスリと笑いをまとい、
観客を幻想ならぬ
幻滅の世界に陥れていたのかもしれない。
実に皮肉な展開ではないか。

さて、スケートの世界は、アイス・ダンス、ペア、シングル
などの部門に分かれている。
マジックも同様に、ジェネラル(一般)、
イリュージョン(大仕掛け)、
スライハンド(手技)などの部門に分かれている。
同じである。

ただ、フィギュアにはコメディ部門がない。
これが実に大きな違いなのだ。
マジック・コンテストにはコメディという部門があり、
私たちは常にコメディ部門にエントリーし続けているのだ。

コメディ部門で上位を目指すためには、
観客を大いに笑わせなければならない。
トークであったり母国でしか分らないギャグ・マジックは、
一部の観客しか支持を得られない。
なんせ、観客は世界中から集まっているのだから。
ゆえに、どの国にも共通する面白さでなければ
入賞などできないのだ。

フィギュアにも、ぜひともコメディ部門を
新設していただきたいものだ。
もしそうなったら、私もエントリーしたいと思う。
今はまだ滑れないのだが、リンクで受けるギャグは
もうすでに多く考えている。

マジック・コンテストでは、
これまで多くの日本人マジシャンが
入賞を果たしている。
そのほとんどが、スライハンド部門であった。
やはり日本人は細かい技、手技に強いのであった。
ところが、コメディ部門となると、
エントリーするマジシャン自体が極端に少ない。
これもまた国民性というものであろうか。

ちょいと自慢話であるが、
そんなコメディ部門で入賞した、
おそらくただ1組の日本人マジシャンが、
ナポレオンズなのであった。

誇りに思いたいのだが、
多くのマジック関係者の感想は共通していて、

「ヘタな鉄砲も数撃ちゃ当たる」

確かに、私たちはかれこれ10回は
コメディ部門にチャレンジしていて、
審査員たちも、

「今回は入賞させてあげるから、もう次は遠慮してね」

という意味で賞をくれたのかもしれない。

フィギュアでは、いずれの部門においても
まずは『滑る』ことが必須であろう。
ところが、コメディ・マジックでは
決して『滑る』わけにはいかない。

「なんだか、ずいぶん滑ってたなぁ」

高座を降りて、先輩によく言われたことを思い出した。

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2010-03-07-SUN
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