MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『2010年こそは』


友人から電話がかかってきた。

「来週、沖縄に行くのね。
 私の友達の結婚式なのよ。
 それで、友人たちでお祝いするんだけど、
 みんなでお金を出し合って
 マジシャンを呼ぶことにしたのよ。
 でね、ネットで探したら、
 すごく良いマジシャンが見つかったの。
 そのマジシャンは世界チャンピオンでね・・・」

嫌な予感がした。

名前を聞いてみると、
評判の良くない事務所に所属している
マジシャンであった。

私は、良いマジシャンならここにいるよと思いつつも、
自称世界チャンピオンの嘆かわしい実態を説明した。

私も、友人と同様にネット上に踊る美辞麗句、
キャッチ・コピーをいとも簡単に信用してしまう。
自分の得意な分野なら、
彩られたキャッチ・コピーを剥がした姿が見え、
情報を鵜呑みにすることはない。
だが、知らない分野となるとなぜか丸呑み、
信用してしまうのだ。

私の話に、

「へぇぇ、じゃぁ、
 世界チャンピオンはキャンセルするわ。
 でも、困ったなぁ、
 どこかに良いマジシャンがいないかしら?」

いつまでも私が良いマジシャンであることを
思い出せないでいる友人であった。

仕方なく、私は彼女たちに
お祝いマジックの幾つかを教えることを約束した。
友人たちは、
教わったお祝いマジックを一生懸命に演じ、
とても喜ばれたという。

引っ越しをすることになった。
となれば、引っ越し業者を捜さなければならない。
ところが、テレビ・コマーシャルで知る業者は
どこも日程が合わなかった。

仕方なく、ポストに投函されたチラシで知った業者に
頼むことにした。
チラシに書いてあった、

『すべて専門の当社社員です。
 プロの技術でスピーディな引っ越しを!』

というキャッチ・コピーを信用したのだ。

ところが、引っ越し当日、
まだ予定の時間ではないにもかかわらず、
ひとりの中年女性がやってきた。
ユニフォームではなく、自前の作業着のようであった。
その後、数人の学生風の若者たちがやってきた。
同じく自前の服装であった。

彼らの作業は、まるで稚拙だった。
洗濯機を新しい部屋に設置しようとするのだが、
排水ホースを取り付けることすらできないでいた。

仕方なく、私が付け替えを指示した。
知らぬ間に、私は引っ越し作業の現場監督に
任命されていたのだ。

作業が終了し、すっかり疲れ果てている私に、

「あのぉ、当日の現金精算でお願いします」

そう言う学生風の若者に訊いてみた。

「君はこの会社の社員で、引っ越し専門なの?」

すると、若者は小さな声で、

「はい」

他の人も、全員が社員であると答えた。
ユニフォームを着ていないこと、
全員が同時刻に来なかったことなどを問い詰めても、
答えられないままであった。

私は、

「この請求金額なんて、到底払う価値なんてないよ。
 せいぜい、時給千円くらいなら人数分を支払います。
 ただし、アルバイト代としてね」

彼らはかなり当惑した表情になりつつも、

「すいませんでした」

そう謝りつつ、去って行った。

後日、業者から電話があり、
減額された金額を支払うことになった。

「こんにちわ、
 先日ご応募いただいたキャンペーンの商品を
 持ってきました」

ドアを開けると、ひとりの若者が玄関に立っていた。

「先日、特製ジャンパーが当たるキャンペーンに
 ご応募いただきましたよね?」

若者の手には、ジャンパーが数枚入った紙袋があった。
私はジャンパーが当たったと思い、
心の中で大いに喜んだ。
ところが、若者は続けて、

「残念ながらジャンパーは外れました。
 で、この本を残念賞としてお渡しします」

チラシを数枚束ねただけのようなものを手渡した。

「で、ここに2、3枚ジャンパーがあるのですが、
 これは、せっかく当選したのに
 不在だった方の分なのです。
 これを内緒で差し上げてもいいのですが、
 メーカー品の高価なものなので、
 我が社の新聞を半年でも取っていただければ
 差し上げたいと思います。
 いかがでしょうか?」

プレゼントを抱えたサンタクロースと思われた若者は、
いきなり新聞勧誘員に変身したのであった。

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2009-12-27-SUN
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