MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『夢の句会』


ある日、うれしいメールを受信した。

「○月○日、句会を開催します。
 場所は恵比寿の
 BAR『まはから』でございます。
 夜8時半くらいに集合してください。

 さて、宿題をひとつ。
 皆さんの好きな句、ぜひとも紹介したい句を一句、
 探してください。作者名、その句を選んだ理由を、
 そのへんの紙に書いて提出してください。後日の
 句報に掲載いたします。

 宿題その2です。
 夕方7時までに、皆さんにお題を送信します。
 開始時間までに、そのお題で句を作って句会を
 スタートさせませう。

 PS 小石さんに、皆さんの句を清書して
 いただけませんか? よろしく」


私は以前から、
「俳句を始めました」
と、あちこちでアナウンスしていた。
しかし、句会というものは敷居が高いように感じ、
多くの皆さんと俳句を楽しむことなど、
夢のまた夢と思っていた。
そこへ、実にありがたいお誘いが、
なんとメールでやってきたのだ。

句会当日の夕方、再びメールがやってきた。

「お題を発表します。
 句会会場になるBAR『まはから』とします。
 では後ほど」


私は早めに恵比寿に向かい、
まずは中華料理で腹ごしらえをした。
腹が減ってはいい句はできないのだ。
しかし、美味しい餃子や焼きそばを食べつつも、
頭はお題である『まはから』の四文字ばかりを
考えてしまう。

まはから、まはから、まはから。
無意識のうちに、声に出して
ぶつぶつとつぶやいてしまう。

うまい、などとつぶやいている分には
問題なかろうが、
なんせお題は『まはから』という、
知らない人にはまったく意味不明の言葉である。
それをつぶやいているのだから、
店の人にかなり不気味な人間に
思われたことだろう。

さて、いよいよ句会の始まる時間がやってきた。
BARのドアを開けると、
私はやはり一番乗りであった。
だが、間を置かず次々と句会参加者がやってきた。

「では、まず皆さんに資料を渡します」

俳句の入門書、歳時記、著名な俳句などについて、
詳しく書かれている。

「さっそくですが、
 本日のお題である『まはから』を詠みこんだ句を
 考えてもらいます。
 今が8時半ですので、9時前くらいをメドに
 お願いします」

皆さん、ビールやワイン、カクテルなどを
手にしながら、しばし沈思黙考となった。

私のこれまでの句といえば、
『 柿食えば 鐘が鳴るなり ほぼ十時 』
などと、実に不謹慎な句ばかり考えていた。
しかし、今夜ばかりは真面目に詠まなければ
怒られそうだ。

『 まはからの 階段こつこつ 冬来たり 』

BAR『まはから』は、とあるビルの地下にある。
その鉄の階段に響く客の足音が、
寒くなると冷たく
聞こえてくる様を詠んでみた。

皆さんも、それぞれ詠んで提出をした。
全員の句を一枚の紙に清書し、
全部の句の中から『天』、『地』、『人』を
各人が選ぶのだという。

「当然ではありますが、自分の句は
 選ばないのが、マナーとされています」

なるほど。
光栄にも、私が皆さんの作品を清書していった。
こうすれば、筆跡などで作者を知ってしまうことも
なくなるという訳だ。

各人それぞれの句を選び、
句の下に自身の名前を記していく。
最も好きな句には、自身の名を記し丸で囲っておく。
丸で囲われた数が最も多い句が『天』となる。
次に多いのが『地』、最後が『人』となる。

『天』、『地』、『人』に選ばれた句の作者は、
自身の名前を述べる。

「小石でございます。ありがとうございます」

てな具合、
恥ずかしいような誇らしいような気分だ。

選ばれた句を、選んだ各人が自由に寸評する。
選ばれた句を詠んだ本人の意思とは
まるで違った解釈であったりするが、
それはそれで佳しとされる。
なにげに詠んだ自分の句が、皆さんによって
意外な解釈をされていくのが驚きつつも楽しい。

楽しかった句会の余韻を残しつつ帰宅して、
私は筆ペンで書く練習をした。
ヘタな字で清書していては、
せっかくの名句も
台無しになってしまうように思えたからである。

翌日、男性も女性も着物を着て参加する
パーティがあった。
私も、久しぶりの着物で会場に向かった。

皆さんの着物姿を見ながら、
いつの日にか着物を着て句を詠み、
筆でさらさらとしたためる自分を夢想した。

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2009-11-22-SUN
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