MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


マジシャンもしてみむとて、するなりの川柳、
今回はその第二弾なりて。

『マジシャン川柳 その二』


『 ラーメンは スープと麺が 丼の中 』

ラーメンを頼んで、スープあるいは麺だけが出て
きたら困惑しきりであろう。
普通はまずスープをひとくち、
「う〜ん」
などとうなり、続いて麺をすすって、
「旨いなぁ」
というのがラーメン。
それが、
「この麺がすごいんですよ」
と言われて、丼の中に麺だけ出てきても困るだろう。
いくら美味しい麺でも、麺だけすすってもねぇ。
同じく、丼にスープだけでも満足するべくもない。
で、何が言いたいかと言うと、マジックも同様で
あると言いたいのだ。
よくあるのが、
「このマジックは不思議なんだよ」
と言われて見てみると、本当に不思議なだけ。
まるで演出なしだったりするのだ。
蕎麦もうどんも、麺も重要なのは同じ。
その麺を、
「うまいっ!」
というものに引き上げるのは、やはり汁(つゆ)で
あろうと思いて詠めり。
『 マジックは 個性とネタが 板の上 』
てなところか。


『 マジシャンは 衣替えせず 夏迎え 』

真夏のある日、千葉県の海水浴場のイベントに
出演した。
観客は、当然ながら水着のみ。
焼けつくような日差しの中、マジシャンだって
水着で登場したいのだが、残念ながら水着で
できるマジックなどないのであった。
仕方なく黒いスーツで浜辺に登場したものの、
あまりの暑さにたちまち意識もうろうとなったことを
思い出して詠めり。


『 マジシャンは 衣替えせず 冬迎え 』

夏同様に、冬場に外のイベントに出演したことが
ありまして。
とにかく寒いのなんのって。
寒いからとて、コートやジャンパーを着込んで
マジックなどできるはずもない。
体も手足も凍えてしまい、指先がかじかんで
動かないのであった。
また、リングなど金属製のマジック道具は
手触りが氷のように冷たく、
短い時間で終了してしまった。
マジシャンの敵は、暑さ寒さと思いて詠めり。


『 はてのはて そのまたはての 鰯雲 』

もう、すっかり秋ですね。
なんだか空気が澄んでいるようで、空遠くまで
見えるような気がする。
イワシは、魚編に弱いと書きます。
水揚げされると同時に傷み始める、
大変にデリケートな魚のようです。
鰯雲も同じなのだろうか。
見つめているうちに、
どんどん薄れていってしまう様を感じて詠めり。


『 失敗に すっかり慣れて プロとなり 』

とりたてて自慢できるものがない我が芸なれど、
とにかく失敗のエピソードには事欠かない。
ほぼ毎回のように失敗し続けていると、不思議な
ことに何が起きても動揺しない自分がいる。
反対に、デビュー当時から天才の名を
欲しいままにしてきたマジシャンが、
初めてトランプを落とした時の動揺ぶりを思い出す。
彼は、失敗というものにまるで慣れてなかったのだ。
それゆえ、たった数枚のトランプが自分の手から離れて
落ちたことが信じられなかったのだ。
今、何かにつまずいて落ち込んでいる人に伝えたい。
大丈夫、その失敗は次へのジャンプ台だよと思いつつ
詠めり。


『 カメレオン! と声かけられ 舌を出し 』

惜しい。
「いつも見てるよ〜!」
なんて声をかけておきながら、カメレオンは
ないだろうに。
子供に、
「ナポリタンさん」
と呼ばれた時は、なぜかうれしかった。
世の辞書に、勘違いの文字は多いなぁと思い
つつ詠めり。


『 天高く 名馬駆け抜け 氷雨降る 』

世の中に、永遠というものは存在しない。
諸行無常とは知りつつも、初めて番組に出させて
いただいて以来、すでに四半世紀は過ぎただろうか。
永きにわたって日本全国あちこちの独演会にも
ご一緒させていただきました。
もう、存在自体が永遠と思っていました。
その存在のすぐ横に、過去があり現在があり
未来があると思っていました。
生とは比べようもなくとも、
全盛期の時のCDを残していただいた。
私は、それをいつまでも
聴き続けることになるだろう。
未だに信じられない想いを抱きながらも、
感謝の気持ちを込めて詠めり。


『 いいネタと メジャーを持って かけつけり 』

ある先輩マジシャンが我々のステージを見て、
すぐさま新ネタの箱の寸法をメジャーで測り始めた。
彼は、翌日にも同じネタ箱を作りそうな勢いだ。
「あの、これは僕たちの考えたオリジナル
 なんで・・・」
私がそう言うと、先輩マジシャンは、
「ふぅん、そうかぁ」
多いに不満そうに去って行った。
どうやら、彼らの考えは、
「自分のマジックは自分のもの。人のマジックも
 自分のもの」
らしいと嘆きつつ、詠めり。


『 打ちたてで 茹でたて蕎麦の 伸びたてか 』

蕎麦通であるM氏と蕎麦を食べていた。
旨いのだが、惜しいことにやや伸びている
蕎麦に、
「う〜ん、これはねぇ、打ちたて茹でたて、
 伸びたて・・・」
そう、つぶやいたのであった。
M氏はよく通る見事な声帯の持ち主で、
おそらく厨房にも届いたと思われる。
背中に、ちょいと汗をかきつつ詠めり。


『 マジシャンも 一度なりたや 政治家に 』

裁判員裁判という制度ができている。
ならば、国会議員制度というものもあって
いいのではないか。
年に数回、無作為に選ばれた数人の国民が、
重要な新法などに国会議員として投票できるのだ。
1ヶ月間だけ国会議員と同じ権利を与えられ、
一生懸命に勉強して新法の是非を考えて
投票せねばならない。
与党と野党の勢力が拮抗している場合、
1ヶ月限定議員の投票が多いに重要となる。
「政治なんて、関係ないね」
などという若者も、選ばれて国会議員になって
しまうかもしれないのだ。
政治への関心が高まって、投票率も向上するのでは
ないかと思いて詠めり。


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2009-11-08-SUN
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