MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『続・マジシャンの講演』


講演を依頼された。主催の方が言う。
「マジックはあまり期待していません(笑)。
 トークに期待しています」
喜んでいいような、いけないような。

「さて皆さん、
 本日はマジックの効用について
 お話をします。
 皆さんがマジックを見て驚き、
 びっくりして、時に、

 『不思議だなぁ。
  どうなっているのだろう?』

 そう思うはずです。
 その驚いたりトリックを考えたりしている時、
 皆さんの頭の中にたぶんある、脳みそが
 活動を活発化させているのです。

 これはあくまで私の考えですが、
 驚いた瞬間に、
 皆さんの脳みそが
 深呼吸しているようなものなのです。
 脳が深呼吸すると、
 より多くの酸素が脳に取り込まれ、
 いわゆる廻りが良くなると考えています。

 皆さん、最近驚いたことって、ありますか?
 今日の皆さんには関係のない話ですが、
 日本は高齢化社会を迎えています。
 どこに行ってもお年寄りが多いのです。

 まぁ、本日の客席は20代の方々ばかりですが。
 良いことですよ、高齢になるということは。
 健康で長生きできるということですから。
 ただね、だんだん年齢とともに、驚くことが
 少なくなってきてませんか?
 体は、歩いたりジョギングしたり、運動によって
 鍛えられたりできますよね。
 ところが、脳みそを健康に保つには
 使い続けるしかないですよね。

 ただ、いざ脳みそを使うと言われても、
 どう使っていいのか分かりませんよね。
 そこで、マジックなのです。
 皆さんは、ただ客席でマジックを見て驚き、
 時にタネを考えたりすれば良いのです。

 日常、朝起きて顔を洗い歯を磨き、同じ道を通って
 会社なり買い物なりに出かけますよね。
 なぜ同じ行動、同じ道を通るのでしょうか?
 それは、脳みそがなるべく休んでいたいと
 考えているのです。

 もし、私たちが毎日違う道を通って買い物なり
 会社に行くとしたら、かなり大変です。
 
 『あれれ、こっちで良かったっけ?
  あれ、この道は行き止まり?』

 そりゃもう、休む暇もなく考えてばかりでしょう。
 これでは、会社に着く前にすっかり疲れ果てたりして。
 だから、我々は毎日のように同じ道を選ぶのです。

 しかしね、だからこそ、
 脳みそは退化すると思うのです。
 時には違う道を選ぶべきなのです。
 すると、

 『おや、ここにこんな店ができている。
  へぇ、
  おしゃれな喫茶店があるなぁ』

 などという発見があったりして、
 脳みそは多いに活動を高めることでしょう。
 ちょっとした散歩は体にもいいし、
 脳みその良い刺激になるのです。

 さて、マジックを見て驚くこと、
 これもまた脳みその散歩、
 あるいは冒険だと思ってください。

 もう、とにかく、皆さんは席に座っているだけで
 脳みその散歩、冒険ができるのです。
 楽でいいじゃありませんか。
 
 ただ、それだからこそ、
 マジックを見て驚かなければなりませんよ。
 マジックを見て、無表情でぼんやりとした反応、
 リアクションはいけませんよ。

 とにかく、不思議だなぁと思った瞬間、
 『良かった、皆さん、驚いている!』
 そうマジシャンにも分かるように、表情に出して
 驚いてください。
 決して無表情のまま驚いてはいけません。
 これから、皆さんに少しだけマジックを見て
 もらいます。
 多少、不思議ではなくても、
 ちょっとつまらなくても
 どうか無理矢理驚いてください。
 そうすれば、皆さんの脳みそが
 元気になるはずですよ。
 あっはっは」

こうして延々と講演を続け、ふと後ろを振り向くと、
大きな横長の看板が目に入った。
そこには、
『魔術師? それとも話術師?』
と、書いてあった。

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2009-10-11-SUN
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