MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『明かすべきか、明かさざるべきか』

マジシャンは『タネ明かし』という言葉に
敏感に反応してしまう。
雑誌などの見出しに、
『マジックのタネ、実はこうなってる?』
などと書かれていると、
ついつい書店で買い求めて
中身を確かめずにはいられないのだ。

もし、ほぼ日読者の皆さんが
パーティ等にマジシャンを呼びたいならば、

「マジックのネタ、
 全部バラしますパーティ!」

などと一斉にメール等で告知してみてください。
友人の、そのまた友人だったりするマジシャン、
『ネタ、バラし』等の言葉に
過敏に反応したマジシャンたちが
どこからか集まってくるかもしれません。

私はつい先日、新聞の広告に、

『人は簡単にマジックにダマされる。
 そのタネを公開!』

などという見出しを発見してしまった。
となると、私もマジシャンの端くれ、
慌てて書店へと向かった。

購入した雑誌の特集記事、
マジックのタネについての記事を読んでみて驚いた。
内容はまったくちがうのだが、
例えばこんな風の記事であった。

『マジックのうちでも、最もポピュラーなものは、
 やはりハトの出現であろう。
 マジシャンがハンカチの裏表を見せる。
 何も仕掛けはなさそうだ。
 ハンカチを丸め、再び開くと、
 純白のハトがハンカチから現れる。
 実に不思議な現象で、
 マジシャン、マジックの代表格である。
 メキシコのマジシャンが発明したと伝えられ、
 アメリカのチャニング・ポロックが
 芸術にまで高めたと言われている。

 さて、このマジックの仕掛けは、
 形而上学的に言えば、
 抽象的ではなく具象的と言えるものである。
 嚢状のポウチに
 家禽化したハト目ハト科の鳥を招致せしめ、
 主に歯科での治療に用いられるストリングによって
 秘密裏に牽引されるのである』

なんと、マジシャンであっても全く分からない、
まるで理解不能な『タネ明かし』であったのだ。

いったい、この『タネ明かし』の解説を書いたのは、
本当にマジシャンであったのだろうか。
もしマジシャンだったならば、
『タネ明かし』を断れず、
悩んだ末の苦肉の策だったのだろうか。
いずれにしても、私が初めて読む
『タネ明かし』であった。


Barで酔っぱらっていた。
ドアがギィと開いて、
私と同様に酔っぱらっているM氏が入ってきた。

「あぁっ、小石さん、ちょうどいいや。
 ほらほら、不思議でしょう?」

M氏が手にしたトランプが、
手のひらから離れてフワフワと浮いているではないか。
動揺した私が、

「ははぁん、
 どうやら隠れている人差し指がタネのようですね」

プロ・マジシャンとしては、
この程度のマジックのタネは
見破らなければみっともないではないか。
するとM氏は得意満面になって、

「人差し指ねぇ、ほれ、この通り」

人差し指は表に現れたのだが、
相変わらずトランプはフワフワと空中を漂っている。

「ははは、これはですねぇ、
 あの駅の近くの百円ショップに売ってたんですよ」

以前にも記したことだが、
日本奇術協会の元会長が、

「百円は困るわ。
せめて200円にならないかしら」

とぼやかれた、
恨みの百均で売られているマジックであったのだ。

翌日、私は駅前の百円ショップに走った。
すると、フワフワと漂うトランプや、
どこでストップと言われても
当てることができるトランプ、
マジックの代表格であるリングのマジックまでが、
たったの105円で売られていたではないか。

あの有名な、金属製のリングが
繋がったり外れたりするマジックのタネが
ついに明かされてしまうのだろうか。
私は購入したリング・マジックの解説を読んでみた。

『真円状の金属の輪であることを示した後、
 隠蔽したままのギミック部分を
 密かに重ね合わせます。
 と同時に、観客の錯覚を誘導あるいは‥‥』

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2009-05-17-SUN
BACK
戻る