MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『チェンジ!』

私が大学を卒業し、
プロ・マジシャンになろうとしていた頃、
第一勧業銀行は永遠に変わることなく
第一勧業銀行であると思っていた。
同様に住友銀行は住友銀行、
三井銀行も三井銀行のままであると信じていた。
何の根拠もないままに、
これらは変わらないものと思い込んでいた。

しかし、第一勧業銀行はいくつかの変遷の後、
みずほ銀行となった。
他の銀行も、めまぐるしく統廃合を繰り返した。
確か、三井銀行と太陽神戸銀行が合併し、
後になってさくら銀行と改名したと記憶している。
その頃、ある落語家さんのマクラに、
さくら銀行が登場していた。


都内のとある寄席、
客の入りが悪くてどうにも客席が埋まらない。
経営者である席亭は大いに悩んでおりました。
そこに、融資を受けている銀行の方が
二人してやってまいりました。

「お席亭、今日もお客さんは入っていませんねぇ。
 僕が客だとしたら、ガラガラなのを見ると
 入る気が失せますよね。
 もうちょい入っていれば、入りやすいのですがねぇ」

席亭もそれは承知のこと、

「そうなんですよね。
 もうちょい入ってくれれば‥‥。
 そうだ、お二人さん、今から少しの間だけでも
 客のフリをして、席を埋めていてもらえませんか?」

銀行員が客席に座っていると、

「あれれ、今日は少し客が入ってるなぁ。
 なんか今日は面白いのかもしれない。
 どれ、入ってみよう」

不思議なもので、こうして客席は
徐々に埋まっていったのでございます。

さて、この銀行員さんは、
やはり『さくら銀行』の人でございました。


さくら銀行は今や三井住友銀行となって、
マクラには登場しなくなった。

変わらないはずだったあの黒いレコード、
大きかったステレオも、姿を変え続けている。
音楽プレーヤーも刻々と変化している。
私が今愛用しているものも、
かつてのCD、あるいは
MDポータブル・プレーヤーと比べると
ずいぶん小さく軽くなったものだ。
使用しているヘッド・フォンが普通サイズのため、
主役の音楽プレーヤーが
ヘッド・フォンの付属品のように見えてしまうくらいだ。

シャッフル機能の付いた音楽プレーヤーを試してみた。
自分のライブラリーの中からプレーヤーが
勝手に選曲してくれるのだから、
また新鮮な気持ちで聴けるのだ。

音楽をシャッフルして聴く分には、なんの問題もない。
ところが、私のプレーヤーには大量の落語が入っている。
それを忘れてシャッフル機能をオンにしてしまった。

古今亭志ん朝師匠の『唐茄子屋政談』に
聴き入っていると、
噺の途中から三遊亭円楽師匠の『柳田格之進』が
唐突に始まった。
しばらくすると、今度は立川志の輔師匠の『抜け雀』が
割って入り、更に春風亭昇太師匠の『愛犬チャッピー』、
柳家小さん師匠の『御神酒徳利』、
桂歌丸師匠の『井戸の茶碗』と続いて
最後は立川談志師匠の『芝浜』、
まるで師匠方の落語メドレー・リレーとなった。
実に珍しく、もう望むべくもない豪華競演の一席であった。

こんな時代が来るとは、夢にも思わなかった。

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2009-03-22-SUN
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