MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


2009年を迎えました。
皆さまはきっと楽しいお正月だったのでしょうね。
ところで、マジシャンの正月は・・・。

『私の正月』

ホテルでのカウント・ダウン・パーティに呼ばれた。

我々の担当は、
大晦日の23時57分までステージを務める
若手マジシャンの後を継いで
23時59分50秒からカウント・ダウン、
賑やかに新年を迎えるというものであった。

ホテルへの入り時間は21時過ぎ、
まずはあちこちの会場を見て回った。
コマ回しのコマを作るブース、
凧揚げの凧を制作するブース、
羽子板に好みの色を塗るブースなどがある。
私にとっては毎年おなじみの光景で、
古き良き日本のお正月風景は
意外や都心のホテルの中にのみあるのだった。

様々なゲーム機が置いてある会場もある。
その一角に、ボールを投げて番号が書かれた板を落とすと
景品がもらえるコーナーがあった。
小さい子供たちが並んで、
順番にボールを的に当てようと力を込めて投げている。
なかなか板に命中せず、
的の横で球拾いをしているおじさんに
当たったりしている。
子供たちはおかまいなしに次々とボールを投げ、
おじさんは黙々と玉を拾っている。

おじさんは、おそらく60歳を超えているように思われる。
黒いスーツにネクタイを締め、
時々ボールが命中して落ちた板を
再び的の部分に戻したりしている。
ホテルは暖房が効いていて暖かく、
おじさんは休みなくボールを追って
額に汗を浮かべている。
大晦日の夜、子供たちはボールを投げ、
おじさんはボールを拾い的を戻す作業を繰り返している。

私はしばしその光景に見入っていたが、

「そうだよ、
 オレも仕事、がんばらなくっちゃ」

そう思いつつエレベーターに向かった。

指定された部屋に着くと、
早めに到着していたマネージャーが
机に向かって年賀状を書いていた。

「すごい量で、もう大変です。
 なぜ11月、いや12月の頭に
 やっておかなかったんでしょうねぇ、
 はぁぁ」

我らが愛しのマネージャーは、
毎年同じことを言っている。

「お弁当が届いてますから、
 どうぞ召し上がってください」

黒塗りのお重のふたを開けると、
エビの煮物、黒豆、昆布巻きなど、
おせち風の弁当なのであった。
思わず日本酒などをいただきつつ食べたいところだが、
そんなことをしたら勤労意欲は雲散霧消、
マネージャーの激しい罵倒を覚悟せねばならない。
仕事場は常に厳しいのだ。

今はまだ若手マジシャンがステージを務めていて、
出番には少し時間がある。
部屋でテレビをザッピングしていると、

「彼女たちはもう終わりそうですよ。
 どうします?」

アシスタントが焦った様子で部屋にやってきた。

仕方なく急いでステージに向かった私は、
マイクをつかんでステージに飛び出した。
カウント・ダウンまではまだ7分以上あるだろう。
急遽、道具を使わない数字のマジックで繋ぐことにした。

「5、4、3、2、1、ゼロ〜!
 ハッピィ、ニュウ、イヤァ〜!」

なだれ込むようにカウント・ダウンが終わり、
まるで落ち着きなく2009年が始まった。

家に帰ったのは2時過ぎ、
お風呂上がりにビールとワインを飲むと
一気に睡魔が襲ってきた。
そのまま布団に潜り込んでしまった。

元旦早々に見た夢は、
なんと蛇に咬まれる夢であった。
いったいあの夢は何だったのだろうといぶかりつつ
電車で横浜に向かった。

横浜にぎわい座という寄席が、
私の2009年初仕事の場である。
すでに立ち見のお客様も出るくらいの盛況、
お正月の寄席はどこも大入りなのだ。
楽屋に入ると、馴染みの落語家さんたちが
次々とやってくる。
中にはちょいと赤い顔の師匠もいて、
いかにも元旦の寄席らしい。

高座を終えると、支配人さんから
『当り祝い』と書かれた大入り袋をいただいた。
袋を開けると、中に100円玉がひとつ入っている。
なんだかとてもありがたい100円玉のように思え、
私はしみじみと手のひらの100円玉を眺めた。

昨年来の未曾有の不況、
今年は更に不景気になるとの予測が多い。
私は大入り袋の100円玉を見つめながら、
それでもより良き2009年を祈った。

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2009-01-11-SUN
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