MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『愛とマジックの伝道師』

都内某所でマジック・ショーが開催される。
私の長年の経験からして、
マジックは演じるより観る方が断然に楽しい。
それに、今回は
大物マジシャンの出演もある。
私はいそいそと出かけた。

ふむふむ、思っていた以上に
面白く興味深いマジックが続く。
初めて観るマジックの道具もあった。
不思議そうにマジックを観ている普通の観客の興味は、
「はて、あのタネはどうなってるんだろう?」
となるに違いない。
ところが、マジシャンは興味深いマジックを観ると、
「あのマジック、いいなぁ。
 やってみたい、盗みたい、パクりたい。」
そう思ってしまう、
実に悪しき性分の持ち主なのだ。

私がプロ・マジシャンになった頃、
ほとんどのマジック番組を録画したものだ。
特に海外のマジシャンの演技は何度も再生して観た。

マジシャンは、
初めて目にする不思議なマジックであっても、
ほとんどのタネは推測できてしまう。
それゆえ、まったく同じ道具を作ることなど
簡単にできてしまうのだ。
トランプ等の技法、テクニック等も
コピーすることはさほど難しくはないのだ。
まさに『蛇の道はヘビ』である。

マジシャンのビデオを再生しつつ思うのも、
「面白いなぁ、良いタネだなぁ。
 実に良いアイデアだ。
 なんとか怒られない範囲で
 盗むことはできないかなぁ」
そうして他のマジシャンのマジックを
盗作してしまったことが、古い過去に1、2度ある。
しかし、やはり盗んだものは所詮、
自分のものにはなってくれない。
それに、なんだか心苦しさを感じてしまい、
次第に演じなくなってしまった。


勝手なもので、人のマジックは盗みたいけれど、
自分のオリジナルを盗まれると腹が立つ。

「いつもナポレオンズさんのマジックを
 やらせてもらってます。
 ウケるんで」

最近、こう言われることが増えてきた。
盗んだ本人に罪の意識などカケラもない。
どうやら、彼らにとってすべてのマジックは
マジシャンの共有財産という感覚らしいのだ。

「あのね、それは明らかな盗作で、
 いけないことだよ」

こういさめても、

「ちぇっ、なんだよぅ、
 意外とケチじゃないか」

とでも言いたげな表情になり、
むろん謝罪の言葉などありはしない。
「盗んでいただいて、ありがとうございます」
こうとでも言わなければいけないような気分にすら、
なってくる。


どうしても他のマジシャンのオリジナルを
自分でも演じたい場合、等価交換という方法がある。
互いのオリジナル・マジックを
相談の上で交換して演じればいいのだ。

あるマジシャンが、
我々のアイデアを拝借してしまったという。

「盗作してしまったのは仕方ないから、
 君のオリジナルを私に提供してくれ。
 そうすれば、結果的に
 アイデアの等価交換になるから」

そう言う私の提案に、

「僕、オリジナル、ないよ」

となれば、せめて、
「これから演じるマジックは、
 ナポレオンズからの提供です」
くらいのアナウンスがあれば、まだ救われるのだが。


外国から訪れたマジシャンが、
ステージから観客に語りかけた。

「これから皆さんにご覧いただくマジックは、
 ○○というマジシャンから教わったものです。
 ○○は、こう私に言いました。
 マジックとは・・・」

その姿は、まるで素晴らしいマジックを語り伝える
伝道師のようであった。


『ライフ・イズ・マジック』をご愛読されている皆様、
何か良いマジックのアイデアがありましたら
教えてください。
私は喜んで貴方の伝道師になります。

盗作者の皆様、
せめて私のマジックを伝える伝道師になってください。

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「マジックを読んで」と書いて、
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2008-10-05-SUN
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