MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『左利きのマジシャン』

私は『左利きの有名人』である。
自分で有名人なんて言うのも気恥ずかしいものだが、
『左利きの有名人』というサイトに
私の名前があるのだから仕方ない。

子供の頃に箸と鉛筆は右に矯正されたため、
両方とも右手で不自由はない。
だが、本来の利き手である左手でも箸は使え、
文字も書けなくはない。
なぜか野球とかボーリングとかのスポーツは矯正されず、
そのまま現在に至るまで左利き、
サウスポーのままである。

小学生の頃、右利きの子たちと卓球をすると、
「左利きの子とすると、打ちづらいから嫌だ」
と言われることが多かった。
私は普通に打っているのだが、
サウスポーの打った球は
右利きの人のバック・ハンド側に来ることが多いのだ。
それは私も同様で、
右利きの人が打った球は私のバックに来る。
お互いさまなのだが、なんせ多勢に無勢、
圧倒的に多い右利きの子たちの意見が大きくなる。
そうなると、仲間外れを恐れて
右利きの子の打ちやすい方向に打つように
練習をしたものだ。
私は健気で優しい少年だったのだ。

自動販売機、自動改札機など、
人間工学に基づいたものすべてが
左利きには不便である。
駅で切符などを購入しようとすると、
左手に持ったコインを
自販機の右側にある投入口に入れなければならない。
左手で無理やり投入しようとすると、
入れ損ねてコインを落としたりする。

切符を、自動改札機の
右側にのみある投入口に入れる場合も同様である。
左手に持った切符を、神経を使いながら滑り込ませる。
それでも失敗することが多い。

ボーリングのボールは、
右手の親指、中指、薬指を入れる穴が空いている。
中指の方が薬指より太いため中指用の穴の方が大きく、
薬指用の穴は小さく作られている。
この右利き用のボールに左手を入れようとすると、
太さが逆になってしまう。
中指に合わせると薬指には大きすぎ、
薬指に合わせると中指は入らない。

かくして左利きは常日頃、
特有の苦労を強いられながら暮らしているのだ。
「でも、
 マジックを練習するのには
 右も左もないでしょ」
そう言われるのだが、
やはりマジックの練習にも左利きなりの苦労がある。

マジックのノウ・ハウを教えてくれる本やDVDなどは、
右利きのマジシャンが
右利きの人に教えるようにできている。
ロープが結ばれたり解けたりするマジックを
マスターしようとすると、
右手と左手の動きをすべて逆に
置き換えなければならない。
これが意外と難しい。
私がロープ・マジックも苦手にしているのは
このためなのである。

『左利きの有名人』には、
私の友人である松尾貴史氏の名前もある。
松尾氏は、ご飯を食べる時の箸も左手である。
マジックも得意で、左利きのまま
見事なマジシャンぶりである。
よくBarでご一緒する立川志の輔師匠も、
実は左利きだ。
落語は、すべて右利きのままにするように
定められているようで、
様々な所作はすべて右利きのままに
演じなければならない。
志の輔師匠の高座に、
左利きの苦労など微塵も感じられない。

Barで、私と松尾氏と志の輔師匠で
ダーツを楽しんでいた。
三人とも左利きなので、
当然ながら全員左手で投げていた。
それを珍しそうに見守っていた酔客が、
「このBarは、
 ダーツは左で投げるルールなの?」。

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2008-09-07-SUN
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