MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

以前、誰かに聞いた話、
「本を出版したから、買ってくれよ」
「俺が一冊買うと、お前にいくら入るんだい?」
「まぁ、印税は10パーセントだから、100円かな」
「じゃぁ、お前に100円やるよ。
 それで俺は千円も損しなくて済むからさ」

『著者近影』

パスポート用の写真を撮影に行った。
早いものでもう10年が過ぎて、
もう一度更新しなければならないのだ。
自動車運転免許の更新の際は、
写真屋さんで撮ってもらった。
なんせ5年も使うもの、
なるべく良い写りに超したことはないと
思ったからである。
ところが、
そうして撮ってもらったお気に入りの写真が
免許証に貼られるのではなかった。
実際の免許証に貼られた写真は、
免許証更新センターで撮られたものだったのだ。
なるべく男前にという、
私の努力は水泡に帰したのだった。
今回のパスポート用の写真は、
『提出された写真がパスポートに掲載されます』
と明記してある。となれば、
やはり写真屋さんで撮影してもらわなくては
ならないだろう。
私は、前回も撮ってもらった
西新宿の写真屋さんに向かった。
ところが、写真屋さんは無くなっていた。
元あった場所にはビルが建っていて、
飲食店ばかりになっていた。
「あぁ、数年前は写真屋さんだったけどね。
 証明写真ならそこの◯◯カメラの前に機械があるよ」
1階の蕎麦屋さんが親切に教えてくれた。
仕方ない、今回は機械で撮ることにしよう。
私は機械の中の椅子に座り、600円を入れた。
写真屋さんでは、大きな鏡を見ながら髪を整え、
色々と指示を受けながら撮影をしたものだ。
それが機械となると、鏡などどこにもなく、
ボタンを押したら急にシャッターの降りる音がした。
カーテンを開けて、出てきた写真を見た。
妙に緊張している怪しい東洋人が写っていた。
あまりの出来映えに
撮り直す気力もなくなってしまった私は、
そのまま最悪の出来の写真を提出をしてしまった。
出来上がったパスポートを受け取り、
写真の部分を見た。
はたして、こんな怪しい写真で
出入国の審査を通過できるのか、
私は不安にかられつつ後悔しきりなのだ。

再び写真が必要になった。
今回は、6月に出版される予定の私の小説、
『神様の愛したマジシャン』に使用する写真で、
いわゆる著者近影というやつだ。
今回こそ、失敗は許されない。
まずは、いつものカリスマに
髪をカットとセットをしてもらった。
さすがカリスマ、かなりかっこ良くしてもらったその足で、
美容室のすぐ近くの写真屋さんに向かった。
自信満々で椅子に座った私に、
カメラマンのおじさんが言った。
「じゃぁ、着替えはこちらで」
着替え? そうだった、
私は髪のセットばかりに気を取られていて
洋服にまで考えが及ばなかったのだ。
そのため、髪をきっちりと整えたトレーナー姿の、
なんとも中途半端な著者近影になってしまった。
こんな写真を著者近影にするわけにはいかない。
自己満足に過ぎないのだが、
今回こそは一番気に入っているスーツを着て、
カリスマに髪をセットしてもらい、
カメラマンの指示を受けた著者近影を
完成させなければならないのだ。
そんな手間もお金もかけた著者近影が載った私の処女小説、
『神様の愛したマジシャン』であります。
どうか皆様、
私に100円を渡すだけで済まさないでください。

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2008-04-22-TUE
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