MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『創業30年』


このところ、老舗の食品メーカーの偽装事件が続いている。
またまた、テレビでコメンティターに言われるのだろうか。
「偽装を続ける人たちは、マジシャンなんだよ!
 ここまでやってもタネがバレないから
 もっとやってやろう、そんな考えなんだよ!」
実に分かりやすい比喩ではある。
けれど、マジシャンとしては大いに傷つきます。
かつて、『坊主、丸もうけ』という表現を
使用しないよう求めたお坊さんがいたが、
気持ちは分かるなぁ。

ナポレオンズは、
すでに結成30年を迎えたマジック界の立派な老舗だ。
『大した芸もないのに四半世紀』を
キャッチ・コピーにした結成25周年から
更に5年を重ねたが、
『大した芸』は未だ見つからないままである。
芸歴30年となれば、
実年齢も相当なものになってしまっている。
若かりし頃は、
「今は若気の至りでダメダメ人間だけれど、
 齢を重ねれば立派な人間になれるもんね。
 芸だって、長く続けていれば
 それなりにすごい芸ができるようになるはずさ」
などと、本気で信じていた。
ところが、人生カウント・ダウン、
折り返し点を過ぎた年齢になっても、
立派な人間になどなれてはいない。
それどころか、時々些細なことに腹を立てたりして、
相当にみっともない。
どうやら、年齢を重ねれば
忍耐とか常識が増すなどというのはウソらしいのだ。
ある研究家によれば、
60歳の忍耐力は7歳の子供の忍耐力と
大差ないらしいのだ。
となると、若気の至りは70歳でも80歳でも続いたりして。
「ふえっへへへ、若気の至りじゃて、すまんのう。
 ふえっへへへ」
うそぶいている90歳の私が容易に想像できる。

結成30周年のリサイタルの際に発行した
パンフレットには、
『アメリカ・ラスベガスで開催された
 84’マジック・オリンピックに参加、
 最高得点で優勝!』
『マジックの殿堂、マジック・キャッスルに出演』
『モロッコ・不思議紀行を敢行』
『オランダで開催された世界マジック大会にて、
 第3位に入賞!』
『フランス・パリにてパリTV、
 パトリック・セバスチャン・ショーに出演』
『カナダ・モントリオールで開催された
 コメディ・フェスティバル’98 にゲスト出演』
『台湾TV、歓楽一級棒にレギュラー出演』
などという経歴が載っている。
自慢ではないが、これらの経歴にウソはない。
スペインのマジック大会やドイツのテレビに出演して
シ〜ンとされたこと、なぜか台湾では
『スケベな手品師』というキャラでウケてしまったこと、
日本と南米とは季節が逆なのを忘れて、
真夏の日本からTシャツのまま
真冬のチリに降り立ったことなどを掲載していないだけだ。
世の中には、経歴に偽りありのマジシャンが多い。
偽りでなくとも『世界チャンピオン』などという、
曖昧な表現を多用したりしている。
そのせいで、日本には世界チャンピオンというマジシャンが
何人も存在してしまっている。
「世界チャンピオンですが、日本では13位です」
なんてこともあったりして。
何年に、どこの国で、
どれくらいの規模で開催されたマジック・コンテストで
チャンピオンに認定されたのか、
明記されていないことが多い。
となれば、マジシャンも
食品メーカーの製造年月日、産地、品質等の偽装を
笑ってはいられない。

かの三遊亭圓生師匠のマクラに、
「このごろは、う〜ん、
 ずいぶんと名人なんてぇのがおりまして。
 ところが、名人などというものは、
 そんなに簡単に出てくるもんじゃぁ、ない。
 今の世には、名人と呼べる人はいないんじゃぁ、ないか。
 あたしなんぞ、どこかに『名人・圓生』などと
 書かれているのを見ると、
 そのうちお上からおとがめを受けやぁしないかと、
 ビクビクして暮らしている、うふふ」
そうなのだ、訳の分からない経歴を並べ立てたり、
チャンピオンなどという具体性のない実績を強調するより、
「あなたは、どのようなマジシャンですか?」
という問いには、
「はい、名人です」
と答えられれば良いのだ。

ナポレオンズは、今後も可能な限り
活動を継続していくつもりであります。
大した芸ではなくとも、
いつの日にか名人と呼ばれるその日まで、
日々精進を重ねてまいる所存でございます。
どうぞ今後ともご贔屓のほど、よろしくお願いいたします。

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2007-11-08-THU
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