MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『 I LOVE LONDON 』


ロンドンに行ってきた。
初めてのイギリス旅行である。
これまで幾度か訪れる機会を得てきたが、
妙にスケジュールの都合が合わなかった。
「名前がナポレオンじゃぁ、
 絶対にイギリスには行けないと思うよ」
口の悪い友人のジョークにも、苦笑するしかなかった。
これまで、ヨーロッパの
ほとんどの国を訪ねている私にとって、
一度は訪れたい国、それがイギリスだったのだ。
その夢が希望が、とうとう叶う日がやってきた。
あるプロデューサーから、
「どこか行きたい国、
 あるいは逢いたい人がいる国を訪れる企画があります。
 小石さんは、そんな国がありますか?」
という、実にありがたいお話をいただいたのだ。
そこで、一緒に旅をすることになった、
奇跡の指先を持つという
マジシャン、Mくんと相談の結果、
念願のロンドン行きが決定したのだった。
7月某日、成田でMくんと待ち合わせた。
意外と大きな旅行カバンとともに、颯爽とMくんが現れた。
「あれれ、ずいぶんな荷物だねぇ。
 てっきりトランプ数組しか必要としないMくんだから、
 アタッシュ・ケースひとつで来ると思ったよ」
すると、Mくんが子供に説明するかのように、
「いいですかぁ、小石さん、
 トランプ以外にも必要なものもあるんですよ。
 ロンドンには◯急◯ンズも◯フトもないから、
 予備も含めて多めのものが必要になるんですよ。
 それに、イギリスは紳士の国でしょ。
 スーツも数着、必要だろうし」
なるほど、常に周到な準備を怠らないMくんである。
私はといえば、
巨大なジュラルミンの箱を持参してきている。
今や代表作となった
『あったまぐるぐる』専用のカバンなのだ。
『あったまぐるぐる』で使用する、
大きめの帽子のようなマジックの道具は、実は木製である。
しかもすでに30年間使いに使い続けて、
あちこち弱くなってきている。
万が一、壊れてしまっては大変なのだ。
ゆえに、大きなカバンにフトンを敷き
『あったまぐるぐる』を載せ、
周りにもフトンを敷き詰めるのだ。
つまり、カバンの中はほとんどがフトンなのだ。
もし荷物チェックなどで開けられたら、
係の人はさぞかし不審に思うことだろう。
 
ロンドンまでは、およそ11時間の旅である。
週刊誌を読みつつ隣のMくんを見ると、
シャンパンを優雅に飲みつつ
ノート・パソコンでなにやら原稿を書いている。
いつでもどこでもスタイリッシュなMくんなのであった。
「今書いてるのは、まぁビジネス書のようなもんです。 
 ちょっと読んでみてくれますか?」
読み始めてみたものの、
さっきまで読んでいた
週刊誌の芸能人のスキャンダル記事に比べると
かなり難しい内容だ。
急激に睡魔に襲われた私は、
「いやぁ、見事な文章だねぇ、ははは」
そう言い残して眠りについた。
 
初めてのイギリス、初めてのロンドンは曇り空だった。
「ホテルの近くに、
 確か美味しいレストランがあったと思うんですが。
 そこで今後のロケの打ち合わせをしましょうか」
ロンドンの中心部へと向かう車の中で、
これまで幾度かロンドンを訪れているMくんは
ディレクターさん、コーディネーターさんと
さっそく打ち合わせを始めていた。
私は、陽が差し始めたロンドンの美しい街並を
何枚もデジカメに収めたりして、
ひとり旅行気分を味わっていた。

ホテルに着き、私はさっそく1万円をポンドに両替した。
お土産を買うには、やはり現地の通貨が必要だろう。
ポンドはこのところ値が上がっていて、
1ポンドが280円。
1万円は35ポンドほどにしかならない計算だ。
円安をぼやきつつも、初めて手にするポンド紙幣は、
なんだかありがたかった。
私は35ポンドを握りしめ、
ホテルの近くのお土産屋さんに向かった。
店内には『 I lOVE LONDON 』などと書かれたTシャツ、
ロンドン地下鉄のマークが付いた靴下などがあった。
さてどれにするかと値段を見ると、
なんと靴下が10ポンド、
Tシャツは30ポンドなのであった。
「お土産は買わないことにしよう。
 今回はロケという重要な仕事で来たのだから」
そう心に誓う私であった。
(つづく‥‥!?)

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2007-08-05-SUN
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