MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『続・僕に関するウワサ』


「小石さんて、かなりスケベらしい」
いやはや、いきなり、とんでもないウワサでございます。
デパートの手品用品売り場でも売っている、
不思議なマジック絵本がある。
マジシャンがパラパラと絵本をめくるのだが、
何も描かれていない白いページばかり。
ところが、おまじないをかけてパラパラすると、
なんと色鮮やかな可愛い絵本に変化してしまうのだ。
もう何年も前のこと、
我々ナポレオンズは深夜番組に出演することになった。
「深夜なんで、あまり普通のマジックは合わないですよね。
 まぁ、ちょっとH(エッチ)系のマジックが
 嬉しいですよ」
プロデューサーはそう言ってニヤリと笑う。
う〜む、僕はしばし悩んだすえに
あの不思議な絵本を思い出した。
そうだ、あの絵本のネタを
ビニ本(もう知らない人も多いだろう、
とてもエッチな写真ばかりが載っている本で、
立ち読みを防ぐためにビニールの袋に入っていた。
ゆえに、通称ビニ本と呼ばれていた。
ちなみに僕は一冊も買ったことはない、たぶん)に
応用すればいい。
番組のスタッフにビニ本を買ってきてもらった。
必要以上に多く多種多様なビニ本を買ってきたスタッフが、
「いやぁ、小石さんと植木さんの好みが
 分からなかったんで」
わけの分からないスタッフの言葉を無視して、
さっそくネタ作りを開始した。
出来映えは完ぺきだった。
まったく何も載っていないただのノートに
おまじないをかける。
すると、そりゃもう筆舌に尽くし難い、
H(エッチ)極まりない写真集になってしまうのだった。
プロデューサーは大喜び、
「じゃぁ、ナポさんがフトンに入っていて
 密かにビニ本を見ている。
 そこにお姉さんが入ってくるので、
 あわてて白いノートに変えてしまう。
 で、お姉さんが出て行くと
 またビニ本に戻してイヒヒ、てなことにしましょう」
マジックなんだかコントなんだか、
さっぱり分からない状況になっていったのである。
収録は大成功に終わり、
その後の我々のマジックは
どんどんH(エッチ)指数を増していった。
番組は続いて、様々な人から、
「見たよ、あのスケベ・マジック。
 いやぁ、よく考えるねぇ、あんなの」
とうとうスケベ・マジックなどと
呼称されるようにまでなってしまった。
「本当にもう、スケベだねぇ」
誰もがそう言わんばかりであった。
悲しいことは更に続き、
田舎の両親に番組のことを話した人がいたらしい。
あわれ両親は眠い目をこすりつつ、
テレビに映る我が息子を待った。
ところが、やっと出てきた我が息子は
ビニ本を広げてイヒヒイヒヒと笑っていたのだった。
両親に電話をすると、
「年寄りは見ちょらんけどなぁ、
 若いもんが見ちょって話があったんやわぁ。
 まぁ、あんまり夜中まで起きちょると体に悪いでなぁ。
 夜中のテレビは止めちょいたらどうじゃろ」
口調は押さえ目であったが、
きっと相当つらい思いをしていたのだろう。
当然のことながら、
仕事の上でのH(エッチ)なマジックである。
番組の趣旨に添った、
あくまでもひとつの演出に過ぎないのであった。
しかし、普通に番組を見ている人には、
そこに映し出されている人物の言動や雰囲気だけが
伝わるのだ。
いやらしい男、そんなイメージばかりが蓄積されていくのは
仕方のないことであった。
ドラマを見ていると、やはり悪役の人は悪役に思え、
善人は絶対に善人だと思い込んでしまうものだ。
ただの役柄に過ぎないことは充分に承知していても、
ついついその役柄のままのイメージが定着してしまう。
時々テレビ局で、
人を刺した(あくまでドラマの中のことですよ)俳優さんに
出会ったりするとドキリとしたりして。
素顔の俳優さんは、イメージと正反対の人が
多いように思う。
悪役ばかりを演じている俳優さんが、
普段はとても温和な方だったりするのだ。
逆に、明るい人物を演じている俳優さんが、
普段はむっつりと不機嫌そうだったりもする。
というわけで、H(エッチ)でスケベなマジシャンの僕は、
普段はとても紳士的ということになる。
どうか皆さん、誤解のないようお願い申し上げます。

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2007-03-25-SUN

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