MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

自分にもうちょっと才能があったら、
もうちょっと見た目がなんとかなっていたら‥‥。
それにひきかえ、あのマジシャンはいいよなぁ。
マジシャンにも、否、マジシャンだからこその、


『嫉妬』


いつものようにBARで飲んでいた。
いつも一緒に飲んだりダーツに興じているあの人が突然、
「嫉妬ですよ、そこから色々な問題が起きてくるんですよ」
どこからそんな話題になったのか、
珍しくジェラシー、嫉妬の話になった。
あの人は、なにをやっても上手い。
誰もがうらやむ天才だ。
マジックまで見事に上手い。
ひょっとすると、
あまりに多方面に才能を発揮してしまうために、
本人も困惑しているかのようだ。
そんな、私にはうらやまし過ぎるあの人が、
「嫉妬ってありますよねぇ‥‥」
なにかを思い出したかのように、つぶやいた。

これまで出会ってきた海外のマジシャンの多くに、
私は嫉妬した。
マジシャンとしての才能にも
もちろんジェラシーを感じたのだが、
その容姿、体型に嫉妬心を禁じ得なかったのだ。
なんせ容姿が美しい。
いかにもマジシャンのイメージに相応しい、
燕尾服が見事に似合う長〜い脚。
それに比べると、私はすら〜りと伸びた
長〜い胴の持ち主ではないか。
別に脚の長さでマジシャンとしての善し悪しが
決まるわけではない。
そんなことは百も承知なのだが、
なぜかマジックのテクニックやアイデアの優劣よりも、
脚の長短にジェラシーを感じてしまうのだ。
嫉妬、ジェラシーというのは
コンプレックスの裏返しなのだろうか。

人間というのは、ほとんど同じような外見だから困るのだ。
ほとんど同じだけど、
微妙に違うから問題が生じてしまうのだ。
あの人の方が目が大きい、鼻が高い、口が小さい等々、
顔の部分だけでも嫉妬の対象は山ほどあるのだ。
目が大きい小さいといっても、
直径が1センチも違わないだろう。
鼻が高い低い、口が大きい小さいといっても、
せいぜい数ミリのことだろう。
なのに、その数ミリの違いに嫉妬しているのだから、
人間とはなんと心狭い生き物であろう。

もしも嫉妬の対象が猫とか犬だったら、
すんなりあきらめもつくであろうに。
「ちぇっ、なんであいつばかりモテるんだろう」
「しょうがないよ、だって喉をゴロゴロ鳴らしてさ、
 あの甘え上手には俺たち人間は永久に勝てないよ」
「ちぇっ、あいつ、愛されてんなぁ。
 俺だって愛されたいもんだぜ」
「でもさ、会う度にあんなに喜びを表現できないだろ?
 それに、俺たちには愛想良く振る尻尾がないもんな」
てな具合に、簡単にあきらめがついたりして。
大きな違いには簡単にあきらめがついて、
小さな違いにいつまでも嫉妬する。
人間は実に不思議な生き物だ。

マジシャンの優劣についていえば、
それほど大きな差はないはずだ。
確かに、テクニック抜群のマジシャンもいれば
つたないマジシャンもいる。
しかし、一般の観客はテクニックばかりを見てはいない。
加えて、上手さが鼻について
嫌な印象を受けることもあれば、
つたなさに愛嬌を感じることもあるのだ。
しかもその境界線は紙一重だったりする。

もし、マジシャンとしての才能、テクニックとか
トリックの優劣に嫉妬していたら、
私はとっくにマジシャンを廃業していたかもしれない。
それほど、世界には
実に様々に才能豊かなマジシャンが多いのだ。
ところが、私は脚の長短ばかりに嫉妬していたために、
肝心のマジシャンとしての才能の無さには
気づかなかったのかもしれない。
神様は、哀れな私に
『気づかない』という素晴らしい才能を
与えてくださったのかもしれない。

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2007-03-07-WED

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