MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『蜘蛛の糸』

ジークフリード＆ロイという、
男性ふたり組のマジシャンがいた。
ラスベガスのホテル・ショーで
何十年もロング・ランを続けた
人気マジック・デュオであった。
始めは黒ヒョウが一匹だけ
ステージに登場するだけであった
彼らのマジック・ショーは、
ライオンや虎、キリンや水牛や象、
世界でも珍しいホワイト・タイガー等を次々と登場させて、
ラスベガスでも１、２を争う人気ショーとなった。
大当たりとなった
ジークフリード＆ロイのマジック・ショー、
彼らとホテル側との契約金も莫大なものとなっていった。
彼らの住む邸宅は
まるで広大なサファリ・パークのようで、
ホワイト・タイガーやヒョウ等の猛獣が
まるで犬や猫のようなペットのように
放し飼いにされていた。
私は一度だけ、彼らの楽屋にお邪魔したことがあった。
ホワイト・タイガーの子供が３頭、
私の廻りをウロウロと歩いている。
子供のタイガーではあるが、
一般の大型犬よりもかなり大きかった。
そのタイガーが私の足にじゃれるのである。
それもかなり気に入ってくれたらしく、
激しく爪をたてるのでかなり痛かったことを覚えている。
この時、タイガーの前で貧乏揺すりをすると
ひどい目に遭うということを知った。
彼らの成功を見て、
ラスベガスのあちこちのマジック・ショーにも
猛獣が多く登場するようになっていった。
あるマジック・ショーでは、
空の箱から大きな熊が登場した。
マジシャンがその熊にまたがってポーズを取ったのだが、
その姿に足柄山の金太郎さんの姿がダブって見えて
苦笑する日本人は、はたして私だけであったろうか。
ジークフリード＆ロイ以降、実に多くのマジシャンが
猛獣とのマジック・ショーを試みたのだが、
彼らほどの成功は収めたマジシャンはいない。
　
デビッド・カッパーフィールドは、
イリュージョン・マジックに革命をもたらした
マジシャンである。
これまでの大掛かりな道具を並べた
マジック・ショーとは違い、
ひとつひとつのマジックに物語を加え、
まるで映画のラブ・シーンを見ているかのように
演じたのである。
端正なマスクで、白いベールをまとった美しい女性と
優雅に舞い踊るデビッド。
彼がその女性を抱きしめようとすると、
愛しい美女は一瞬にして姿を消し、
手には白いベールだけが残される。
悲しみにくれるデビット、
だがしかし、消えてしまった彼女の影、シルエットが
純白のカーテンに浮かび出る。
カーテンが音もなく落ち、二人は再び抱き合いキスをする。
こんな素敵な演出に耐えうるマジシャンは、
おそらくデビッド・カッパーフィールドか
私くらいのものであろう。
この美しい演出を施したマジック・ショーは、
流行といえるほどあちこちのショーで見られたのだが、
デビッドのような成功例は聞こえてこない。
やはりマジシャンは見た目、外見が良くなくては
美しい演出には耐えられないのであろう。
　
Mr.マリックさんの成功は衝撃ですらあった。
彼の超魔術は、マジックの持つ不思議さを
最大限に見せることに効果的であった。
また、そのいかにも怪し気な風貌と相まって、
超能力かトリックかの真贋論争まで
巻き起こしたのであった。
世の中に、ミスター◯◯という芸名のマジシャンが
多く誕生した。
マリックさんと同じようなサングラスをかけ、
マリックさんと同じマジックを同じように演じようとした。
我々ナポレオンズも、
恥ずかしながらそのブームに乗ったことがある。
「Mr.マリックを超えたMr.ガーリックです。
　マリックさんは、うさんくさい。
　しかし、我々はニンニク臭〜い」
本当にすいませんでした。

前田知洋は、クロース・アップ・マジックを
テレビ・マジックの主役にしたマジシャンである。
前田知洋の指先から紡ぎだされる
奇跡のようなカード・マジックは、
視聴者をテレビの画面に釘付けにし、
彼の出演した番組は大変な高視聴率を稼ぎ出した。
エレガントな身のこなし、セレブ感を漂わせる風貌、
それらが前田知洋のマジックの不思議さを包み込んでいる。
その魅力は若い女性の感性をも揺さぶり、
心をわしづかみにしてしまったようだ。
これまであまりマジック界に多くなかったであろう
若い女性のファンを獲得している。
となると、テレビに出演するマジシャンのほとんどが、
急にテーブル・マジックをやりだした。
はたして、前田知洋のような反響を
得られているのだろうか。

１本の蜘蛛の糸が降りてくる。
その細い糸を昇って天空に上がれるのはおそらく、ひとり。
はたして、次はどんなマジシャンに
蜘蛛の糸が降りるのだろうか。

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2007-01-12-FRI

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