MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

春は旅立ちの季節である。
私事だが、私の姪も社会人として
新たな人生をスタートさせた。
おじさんとしてはあれこれ先に口を出さず、
ちょっと遠くから見守りたいと思っている。
そこで今回のお題は、

『巣立ち』

ナポレオンズのボナ植木さんのご子息は、
三遊亭好楽師匠の弟子になった。
まだ成りたてホヤホヤの新弟子である。
先日、たまたま好楽師匠と一緒の仕事があり、
かっ好君の仕事ぶりを見ることができた。
仕事といってもまだ高座に上がるわけではなく、
師匠の廻りでお茶を入れたり
着物を準備するなどの見習い仕事である。
以前、弟子入りの話を話を聞いたときは、
なんだか心配ばかりが先に立った。
まるで想像もしていなかったことでもあり、
落語という世界に合った性格だったかなぁ、
などと思っていた。
仕事上、落語家の皆さんと一緒になる機会が多い。
また、寄席にも出入りしている。
なかなか分かりにくい作法や伝統、人間関係もある。
そんな世界で、はたしてやって行けるのだろうか、などと、
まるで親戚のおじさんのような気持ちになっていた。
いちばんの疑問は、ボナ植木さんの息子が
プロ・マジシャンを目指さないで、
落語家を目指すという点である。
なぜマジシャンへの道ではなく、
落語家になることを選んだのか。
プロ・マジシャンを目指すならば、
父親であるボナ植木さんから
あれこれ学ぶこともできたであろうに。
そんなにボナ植木から
学ぶことなんてないというのか(笑)。
息子さんは息子なりに考えたことであろう。
その上での決意なのだから、私は大いに尊重し、
いつの日にか立派な落語家になってほしいと
願うばかりである。

目出たく弟子入りを許された息子は、
さっそく好楽師匠に芸名を付けてもらい、
新進気鋭の落語家、三遊亭かっ好となった。
かっ好(かっこう)とは、
鳥類のカッコウに因んで付けられた。
「あんまり内で育てないで、
 どんどん外の師匠に育ててもらうんだよ。
 つまりは託卵だよ。
 知ってるでしょ、
 カッコウという鳥は
 他の鳥の巣に自分の卵を産んじゃうんだよ。
 その卵は自分で温めないで他の鳥に温めてもらい、
 育ててもらう。
 しかもだよ、温めてくれている恩人、じゃないか、
 恩鳥の卵を、先にふ化したカッコウのヒナが
 巣から落としちゃうんだよ。
 それで餌を一人占めして、自分だけ大きくなるんだよ。
 だからさ、かっ好はいっぱい噺を覚えて
 立派な真打ちになり、
 教えてくれた他所の師匠の弟子はまるで育たない。
 これがホントの一石二鳥、がははは」
と、好楽師匠から説明を受けた、ような気がする。

落語家さんの名前は、師匠からいただく。
三遊亭○○さんのお弟子さんは
やはり三遊亭△○さんとなる。
古今亭、柳家、林家、橘家、桂、三笑亭、春風亭など、
その名は代々守り伝えられてきた。
マジシャンはというと、
かつては落語界と同様に伝統ある屋号が伝えられてきた。
それが松旭斉という屋号である。
我々ナポレオンズの先輩であるプロ・マジシャンは、
松旭斉という名を持つ方が
半数以上だったように記憶している。
我々ナポレオンズの師匠であった引田天功先生は、
松旭斉天洋師匠のお弟子さんであった。
本来ならば松旭斉天功となったはずなのだが、
それがなぜ引田天功となったのか、
その理由は訊けないままになってしまった。
現代でいうと、マギー司郎さんは
師匠のマギー信沢さんから屋号を引き継ぎ、
その屋号を弟子に伝えている。
マギー審司さんの活躍など、
記憶に新しいのではなかろうか。
ご存知Mr.マリック
(マジックとトリックという言葉を混ぜて作ったとのこと)
さんの登場で、
最近はやたらにMr.○○が増えたようだ。
アマチュアも、これからプロになろうという人も、
Mr.○○を名乗ったりしている。
幸いにしてまだMr.△△という女性マジシャンは
登場していない。
今、特に女性に人気のマジシャンである
前田知洋(まえだ ともひろ)さんが
特定の師匠に弟子入りをしていたら、
松旭斉天知だとか、マギー知洋、Mr.トモなどという
芸名になっていたかもしれない。
そうなると芸風もまるで変わっていたに違いない。
たかが芸名、されど芸名である。

さて、話戻って三遊亭かっ好くん、
あくまでも落語の世界でがんばるんだよ。
間違っても途中からマジシャンに転身して、
ボナ植木とともに頭をぐるぐるなんてしちゃダメですよ!

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2006-04-06-THU

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