MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

ひょっとすると今、
私はダーツにハマっているのかもしれない。
突然、矢を投げるポーズをしながら、
「いや、これじゃダメだなぁ。
 やっぱりこっちの方が‥‥」
何度も投げる動作を繰り返したりする。
駅のホームでゴルフのスイングをしているおじさんと
同じだったりするのだ。
ダーツのできるBARに行き、真剣に的を狙う。
真剣に狙うのだが、
一投ごとにバーボンやらワインやらを飲み酔っぱらうので、
的には一向に当たらない。
だけど、不思議なことにそれが面白いのだ。
いっさい酔わないでするダーツは、なぜだかつまらない。
今夜も酔いつつ考察する、


『マジシャンの不思議なダーツ』


『不思議の総合商社』と称される我々ナポレオンズである。
マジックの質はともかく、
その量、レパートリーの多さ広さは
日本一、いや世界一かもしれない
(誰もホメてくれないので自分でホメてあげたい)。
そのマジックのほとんどが、パロディ・マジックである。
透明な箱に電球がぶら下がっている。
その電球にマジシャンが「割れろ」と念を送る。
すると電球は突然、粉々に砕け散ってしまう。
実に良く出来たトリックで、
本当に念力で割ったと思ってしまう観客も多い。
このマジックを我々ナポレオンズが演じる場合、
ただ普通に
「ほら、割れました」
では面白くない。
そこで、電球が割れてひと言、
「デンキュー・ベリーマッチ!」
多くの真面目なマジシャンから、
「せっかく不思議なマジックなのに、もったいない!」
お叱りを受けてしまった。

お仕着せのままは嫌だ、そう思ってしまう。
せっかくのマジック、むしろ改悪と言われても、
演じるならば自分なりの色を出したいと願う。
この思いはマジックに限らない。
最近BARで楽しんでいるダーツ、
始めは機械が勝手に設定してくれるゲームで遊んでいた。
だがすぐに飽きてしまい、自分流のルールを考え、
試すことにした。
ダーツには、1から20までの数字の部分、的がある。
それぞれにダブル、トリプルという、
点数が倍あるいは3倍になる部分もある。
私が考えたゲームは、
1から順に狙っていって10の部分に
早く矢を命中させた者が勝ちというもの。
1のダブルに刺されば
次は3、1のトリプルならば次は4に進める。
そうやって順番に進んで
早く10に当てた人が勝者となる。
まぁダーツ版すごろくのようなものである。
ダーツの中心部分に当たると、
一気に5段階進めることができる。
1からスタートしていきなり中心に当たった場合、
すでに5に到達したことになる。
つまり、中心に連続2回当たれば、
たった2投でゴールとなるのである。
数人でこのゲームをする場合、
他の参加者が3、4、5と着々と先に進む中、
中心を狙っての大逆転も大いに可能なのだ。
また、8を狙ってダブルに刺されば
9、10でゴールであるが、
トリプルに入ってしまった場合は
9、10、11でオーバーとなってしまう。
なかなかすんなりとゴールとはいかず、
9まで順調に進みながら逆転されてしまうこともある。
我ながら面白いルールと自画自賛している。
練習を重ねた名人が勝つとは限らない。
始めたばかりの人が、
いきなり中心を射抜くことだってあるのだ。

あれこれ考えながらダーツに興じていると、
ついついマジシャンの人生にまでも思いを馳せてしまう。
誰しも1から始めて次へのステップを狙う。
しかし、その1ですらなかなか当たらない。
スタートからして難しいのだ。
それでもなんとか2、3、4と進んで行く。
途中でまた停滞し、もどかしい思いもする。
6、7、8とたどり着いた頃、
まだずっと後ろにいたはずのマジシャンが
見事に中央に的中させる。
その歓声が嫌でも耳に入ってくる。
地道に努力を重ねて来たのに、
アホらしくなるくらいにさっさと抜き去られてしまう。
焦り、もう追いつく気力さえなくして、
矢は的からどんどん外れていってしまう。
でも、それでいいのかもしれない。
マジシャンの人生にゴールなんてないのだ。
それに、マジシャンというゲームはまだまだ続くのだ。

私が経営に参加しているBARで、
いつもこのダーツに興じている。
運も味方するとはいえ、
やはり練習を重ねた者が有利である。
いつもの飲み仲間と
BAR専属のバーテンダーW氏というメンバーで
ゲームを始める。
そして、ゲームの勝者は
いつも決まってバーテンダーW氏なのだ。
バーテンダーW氏はニッコリと勝者の笑みを見せ、
「いやぁ、練習の成果ってもんでしょう。
 僕はお客さんのいない時は、
 いつもダーツの練習をしてますから」
どうやら、私のBARは相当にヒマらしい。

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2006-03-05-SUN

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