MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

シンガポール&香港ツアーに参加してきた。
あの桂歌丸師匠と高座を努める、
以前にも幾度か参加したツアーである。
お客様はシンガポールと香港在住の日本人の皆さんで、
やはり国外ではあまりふれることのない
伝統の寄席芸能を楽しんでいただこうという
趣向なのであった。

成田に集合した我ら桂歌丸師匠御一行様を乗せた飛行機は、
ある日の夕刻シンガポールへと旅立った。
七時間あまりのフライトでシンガポール空港に無事着陸。
空港からタクシーで
宿泊先のフラマ・リバーフロント・ホテルに
到着した一行は、
簡単な打ち合わせを済ませてそれぞれの部屋へと解散した。

夜中、久しく耳にしていない
ゴロゴロという雷鳴が聴こえる。
この時期のシンガポールは気温三十五度以上、
夏真っ盛りといったところ。
雷も珍しくはないのだろう。

早朝に目覚めて外を見ると、
眩しいほどの朝日が差し込んできた。
しかし、数時間後には激しいスコールがやってきた。
なんだか映画の特撮のような壮絶な雨だ。
遠くには晴れ間も見えていて、
明るいまま雨だけが激しく降りしきっている。
この日はスコールと太陽サンサンの繰り返し、
雨にも強烈な太陽にも、
いずれにしても傘が必要だったりするのだ。

美味しい飲茶のランチをいただいたりして
ゆったりと午後を過ごし、
いよいよ夕方からホテルの特設高座にて
「さわやか寄席」の開演となった。
まずは私たちナポレオンズが四十分の持ち時間、
あれこれのネタをご覧いただいた。
続いてお待ちかねの歌丸師匠の落語、
たっぷりじっくり四十五分の高座であった。
用意されていた席をはるかに上回るお客様が詰め掛け、
大いに盛り上がる高座となった。

翌朝、我ら桂歌丸師匠御一行様は
昨夜の余韻とともにシンガポールから香港へと移動した。
空港から車で三十五分、
今宵の宿泊先である
ハイアット・リージェンシー・ホテルに到着、
やや遅い昼食をいただいた。

午後、久しぶりの香港を散策してみた。
シンガポールと違って気温は二十四度ほど、
湿度もなく快適であった。
それでも、香港の人々にとっては
寒い季節の到来なのだとか。
Tシャツでとても快適な私であったが、
分厚いジャンパーの人も多く見かける。
ショー・ウインドーのマネキンも
すっかり冬の洋装なのであった。

夕刻より「さわやか寄席」香港公演の開演となった。
シンガポール同様の構成であったが、
昨年も出演している我々ナポレオンズは、
ややネタを変えての四十分となった。
歌丸師匠も、シンガポールとは違う噺でご機嫌を伺った。
大受けの高座であったのは言うまでもない。

全ての公演を無事に終えて、翌日は一日フリーとなった。
今回も、香港在住のNさんに
あれこれと面倒をみていただいた。
そのNさんの提案で、映画「慕情」で有名な観光名所、
ピークに昇ることになった。

すっきりと晴れ渡った絶好の観光日和、
我々は意気揚々と出掛けた。これまたNさんの提案、
「香港には色々な乗り物があります。
 今日はなるべくたくさんの種類の乗り物に乗って
 観光としゃれてはいかがでしょう」
こんな素敵な提案に、
まずはさっさと乗ってしまう我ら御一行様であった。

まずは路面電車に乗って近くの地下鉄駅まで移動、
日本でも広島や函館で見かけるものの
乗ったことはない乗り物だ。
ガタンゴトンとゆっくりしたスピードで街並を走る
路面電車に揺られていると、
にわかに香港に暮らしているかのような気になるから
不思議だ。

路面電車を降りて地下鉄の構内へ向かった。
エスカレーターを何回か乗り換えるのだが、
このエスカレーターがかなり早い。
東京のエスカレーターよりかなり早く動いている。
それと協調するかのように人の流れも早いのなんのって。
どんどんと追い抜かれていく御一行様は、
初めて東京に出て来て戸惑う人の気持ちが
良く分かるのであった。

なんとか地下鉄の車内に乗り込んだ。
かなりの混雑であったが、
歌丸師匠を見てすぐさま若者が席を譲ってくれた。
香港の若者は実に感心でエライのであった。

地上に出ると、そこはトラムという乗り物の駅であった。
トラムは急こう配を昇る赤いニ連の車両で、
木製のベンチが並んでいる。
先頭車両の一番前に乗ったが、
すでに四十度以上傾いているようだ。
そのままトラムは頂上目指して動き始めた。

途中駅が四カ所ほどあり、その度に停車する。
窓からは香港の街並や海の絶景が見えてきた。
駅に着いてしばし止まる、
その度に絶好のシャッター・チャンスが訪れる。
どうぞゆっくりとでも言うように、
いちいち駅でお休みを取ってくれているようだ。

ピーク、頂上からの眺めは格別だった。
まるで飛行機からの眺めのように、
香港を一望のもとに見渡せるのであった。
御一行様も、ただの観光客となって写真撮影にいそしんだ。

帰りは、これまた香港名物のニ階建てバスで
街へと下ることになった。
細い下り坂を、背の高いバスが
フロント・ガラスに木々の枝をかすめながら進んで行く。
ニ階の一番前に座った私と歌丸師匠、
うねうねと続く道を走るバスの揺れに身を任せた。

山の中腹あたりまでバスが降り、
なんだか静かな歌丸師匠の横顔を見た。
すると、師匠は居眠りをしていた。
これから乗る渡し船の夢でも見ているのか、
ひと足お先にこっくりこっくりと
船を漕いでいるのであった。

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2005-11-27-SUN

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