MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

このところ、あちこちで観覧車が目につくようになった。
ジェット・コースターとかのスピード系、恐怖系が
まるで苦手な私にとって、
観覧車はとても好きな乗り物である。
ただ座って、外の景色の移ろいを眺めている時、
ふと人生のあれこれまでも想ってしまう。
そんな不思議な

『遠い昔の観覧車』

ラスベガスに、しばらく滞在していたことがあった。
ギャンブル、巨費を投じた
絢爛豪華なショーで有名な砂漠の街である。
24時間眠らない街であり、
スロット・マシーン等がいつでも楽しめ、
レストランも常にオープンしている。
いったい何時なのか分からない、昼なのか夜なのか、
それさえも分からなくなってしまいながら、
レストランでピザを食べビールを飲む。
「あぁ、私は今ラスベガスに、いる」
そう実感したりする。

私の滞在の目的は無論ギャンブルではなく、
様々なショーを観ることであった。
がんばれば一日に三カ所以上のショーを観ることも
可能である。
ちょっと規模は小さいが、
その分値段も安いランチ・タイム・ショーから観始める。
そんなお昼のショーへの出演から芸を磨いていって、
夜のショーのスターになるパフォーマーもいたりする。
『明日のスター』を早めに観ておく、
これがいつの日にか自慢になったりするかもしれない。

夜のメイン・ショーといってもピンキリである。
中心街からちょっと外れたホテルの、
あまりメジャーでないショーも観に行った。
そこに出演している人たちは、
様々な出し物をグレード・アップさせて
より大規模なショーへと出世すべく日夜努力している。
夢を実現させようとする強い意思のようなものが
出演者たちの顔に表れていて、
いつまでも余韻の残るショーになったりもする。

現在は年収十億円といわれるランス・バートン
(甘いマスクと温かいキャラクターで、
 誰もが楽しめるマジック・ショーを連日公演している。
 モンテカルロ・ホテルでロング・ランを続けている
 スター・マジシャン)
も、始めは小さなショーのゲスト・マジシャンであり、
様々なパフォーマーに混じって
ショーのごく一部に出演していた。
終演後、ランス・バートンを楽屋に訪ねたことがある。
すると彼は、舞台の裏側で様々な工具を使って
自分が考案したマジックの大道具を作っていた。
音楽もない、煌めく照明もない舞台裏で、
彼は背中を丸めて作業に没頭しているようだった。
ステージで見せる姿とはまるで違う、
なんだか見てはいけないようなランス・バートンの背中に、
声もかけられずその場を立ち去った。

ラスベガスには華やかなショーがあり、
煌めくような成功物語がある。
人目には触れらない舞台裏があり、様々な挫折がある。
そんなラスベガスの日々が続いて、
ホテルの部屋から見える夜景を
ちょっと悲しい気分で見ていた。

ホテルに近いところに、たくさんの光が輝いている。
人々がそぞろ歩いている姿も見える。
数日間だけ営業し、また別の場所へと移って行く
移動遊園地のようだ。
私はその光に誘われて、遊園地へと出掛けた。

何と言うのだろう、
ハンマーを叩いて鉄球を打ち上げるゲーム、
縄バシゴを昇って鐘を鳴らすと
大きなぬいぐるみがもらえるゲーム、
なんだか懐かしいものばかりだ。
ウサギやモルモットなどの小動物コーナーがあり、
見世物小屋がある。
観客のひとりが箱に入ると、
ちょっとしたカラクリで骸骨になってしまうように見える
出し物もあった。
お父さんが骸骨になってしまうのを見て
激しく泣き出す子供がいて、
お父さんが慌てて箱から出てきたりしていた。

焼きたてのホットドッグを手に、小さな観覧車に乗った。
一番高いところに来ても、
隣りのホテルの三階にもならない小さな観覧車。
料金一ドルでゆらゆらと一周する観覧車、
何にも興味がなさそうな係員に何度も一ドルを渡して、
私は飽きもせず廻り続けた。

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2005-11-10-THU

BACK
戻る