MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

なんだか突然始まったような選挙、
投票が締めきられて開票が始まる。
テレビの開票速報では、
出口調査の結果ですでに当選確実などと言っていた。
まだ開票0%の時点ですでに当確なのだ。
本当なのだろうか、開票の結果間違いでした、
なんてことになったらどうすんの?
なんて心配さえした。
しかし、出口調査から得られた結果予想は
正確そのものなのであった。
でもね、開票率0%で当確はやっぱり不思議だよ、
などとマジシャンも首をひねる今回のお題、


『選挙の謎』


前回の選挙のことである。
私は投票日が仕事のため、期日前投票に行った。
小さな会館に、期日前投票所が設置されている。
私は受付けで住所などを書き入れていた。
私の前に、受付けを済ました7、8人のお年寄りがいた。
ずいぶんと高齢の方々ばかりで、
彼らはひとりの中年の婦人に引率されて
やってきたようだった。
なにかにつけて、
「Aさん、次はどうすんの?」
などとその婦人に尋ねている。
婦人はその度にてきぱきと指示していた。
老人たちが、いよいよ投票用紙に記入することになった。
ひとりひとり区切られたスペースに入って書き始めた。
その時、ひとりの老婦人が大きな声で叫んだ。
「Aさん、あたしゃぁ、
 ここはなんて書けば良いんだっけ?」
引率の婦人があわてて
「シィー」のポーズをとりながら老女に駆け寄った。
「だから、これだって言ったでしょ!」
なにか、かなりいけない雰囲気が会場内に漂った。
しかし、私も受付けを担当している人々も監視員も、
誰もが何もなかったように動かなかった。
否、なぜか動けなかったのだった。

今回の投票も期日前になった。
会館は、思っていた以上に混雑していた。
受付けの横にベンチが置かれ、
そのベンチもすでに満席状態であった。
受付けを済ませて投票用紙を受け取るまで、
私はそのベンチの前で立って待っていた。
すると、ベンチに座っていた数人が、
そろってある新聞を広げ始めた。
投票を待つ私を含めた数人の目に、
突然ある政党名が飛び込んで来た。
彼らはいっせいに
ある政党の機関誌を読み始めたのだったが、
私たちに向けられているのは
全員政党の名前がデカデカと載った面であった。
皆さん手を代え品を代え
(ちなみに、これが『手品』の語源だそうです)
がんばっている。
私は深い感慨とともに投票を済ませた。

ある人が選挙に行って投票用紙を手にする。
そのなにも書かれていない投票用紙は、
そのまま会場外に持ち出してしまう。
投票は、したフリか別の用紙を入れる。
さて外に持ち出された投票用紙には、
希望の候補者名を書き入れて次の人に渡す。
渡された人は既に書き入れられた用紙を投函し、
自分の用紙はなにも書かないまま持ち出す。
その用紙に再び希望の候補者を書き入れて
次の人に渡し次の人は‥‥。
こうすると、間違いなく
希望の候補者の得票が増えるという考えであった。
男は自慢げに、
「どうだい、
 これはマジシャンもびっくりのアイデアだろ?」
そう言ってグフフと笑った。
あまり大きな声では言えないのだが、
マジックの世界にも確かに似たような
『ワン・アヘッド・システム』というのがあります。
私も、いつかこれらの手法を使って
日本奇術協会の会長選挙に当選したいと思っている。
「皆さん、パルト小石、
 パルト小石をよろしくお願いします。
 私は信念を持ってこれからのマジック界を明るく‥‥」

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2005-09-25-SUN

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