MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

旅芸人、なんだか古くさい。
もはやそんな人間はいないように思える。
列車は新幹線に替わった。
飛行機での移動で、日帰りばかりにもなった。
しかし、ほんの短い期間ながらも、確かに旅はある。
旅芸人の人生も、確かにある。


『旅芸人』


今年も恒例の東北ツアーがやって来た、わ〜いわ〜い!
という気分になりたかったのだが、
なんせ朝8時16分発の東北新幹線である。
わ〜いわ〜いにはほど遠く眠い。
眠いのは自分だけではない、と言い聞かせようと
同行の芸人さんたちの顔を見ると、
皆一様に寝ぼけ顔であった。

いつも東京駅内で買うミニおこわ弁当を車内でいただく。
この弁当、梅おこわと栗おこわ、
ちょうど良い塩加減のシャケ、
白菜のごま和えなどが入っていて
量も朝飯にピッタリなのだ。
食べ終えるとなんだか睡魔が襲って来た。
戦わずして眠る。

車窓の景色を愛でる夢を見つつ、
「あと10分で着きます」
というアシスタントNに揺すられて目が覚める。
ノロノロと支度をして郡山駅ホームに降りた。
駅から徒歩7分くらいにあるホテルが、
ツアー最初の高座となる。
タクシーに乗ったら怒られそう、皆でペタペタと歩く。
いい天気過ぎて陽射しが暑いほどであった。

ホテルの控え室で、さっそく支度に取りかかる。
三遊亭楽麻呂さんの司会進行で始まり、
まずは主催者の方のご挨拶、続いて我々ナポレオンズ、
三遊亭小円歌さん、林家二楽さん、橘家圓蔵師匠、大喜利、
そして三遊亭楽太郎師匠がトリ
(最後に出る落語家のこと。
 なぜトリというのか、
 まだ松尾貴史氏に聴いていないので不明、
 次回バーで会った時に聴いてみたい。
 とにかく、その日の公演のカンバン、責任者ですね)
を務める。
この楽太郎師匠、大変なイタズラ好きである。
以前の公演でも、
我々の出番中にマジックの道具を舞台に持って来たりした。
いきなりトリの楽太郎師匠が出てくるので、
観客は大騒ぎとなる。
しかも時に半裸だったりして、
我々のマジックよりも観客を驚かせたりするのであった。

「さぁ、まずはナポレオンズさん。
 この方々こそ、
 現在のマジック界を引っ張っているのです。
 マジック界の何を引っ張っているのか?
 そうです、マジック界の足を引っ張っているのです!」
楽麻呂さんの、ホントに出やすい紹介で高座に上がる。
この、最初に登場する芸人には、
かなりの腕前を要求されるのだ。
なぜかと言えば、まだ少し緊張している観客、
温まっていない観客を
すぐさま笑いの世界へと誘導しなければならないのである。
ここで妙に滑ってしまう
(ウケない、笑ってもらえない状態のこと)と、
後に続く芸人に大きな負担となるのである。

しかし、このツアーのいちばん大きな特徴は、
お客さんが実に良く笑ってくれることなのだ。
ゆえに、我々の腕とは関係なく
あははあははと笑ってくれるのであった。
我々の持ち時間は20分、
これを縮めても延ばしてもいけない。
これまた後の芸人さんたちが
調整しなければならなくなるからだ。

出番を終えた順に、再び郡山駅に向かった。
今度は山形へと移動しなければならない。
12時59分発の電車に乗り、約1時間半の旅をする。
一回目の出番が無事に終わり、
なんだかホッとした気分で車窓を眺める。
文句ない快晴、一面に広がる新緑が美しい。

ずっと以前のこと、
新緑の美しさとどこまでも澄みきった青空に誘われた私は、
目の前の草原にダイブした。
草の香りが鼻腔いっぱいに広がり、
空の眩しさに思わず目を閉じた。
その直後、数えきれない数の蜂たちが襲って来た!
チクチクと刺されまくった私は、
悲鳴を上げながら草原から逃げに逃げた。
せっせと蜜を収穫していた蜂たちにとって、
私はとんでもない邪魔者に過ぎなかったのであった。
新緑は遠くから眺めるに限るのだ。

あれこれ思いを馳せつつ、電車は山形に到着した。
今度は駅のすぐ近くのホテルで、本日2回目の高座である。
客席を見渡して、
我が国の高齢化社会をしみじみと実感する。
だが、平日の午後に客席が若者で埋まっていたら、
それはそれで怖い社会かもしれない。
山形の公演も盛況かつ爆笑のうちに終了して、
今度は山形から盛岡へと移動する。
盛岡が、このツアーの最初の宿泊地になるのである。

盛岡駅に着くと、もうすっかり夜になっていた。
駅前の焼き肉屋さんが、打ち上げの場所となり、
美味しいタン塩、ロース、カルビ、
そして名物の冷麺をいただいた。
圓蔵師匠がサッと、実にスマートにお支払いをされた。
師匠、本当にご馳走様でした。

あちこちに出掛け、あちこちで出会う。
あれこれをいただき、あれこれを思い出す。
なにかを想い、なにかを忘れてしまう。
旅はきっとまた続くのだろう。

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2005-06-23-THU

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