MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

もう20年も前になるだろうか、
フランスはパリでロケをしたことがある。
美しい都パリ、エッフェル塔にセーヌ川、
モンマルトルの丘、ベルサイユ宮殿、
華やかなるパリの思い出、題して


『ナポレオンズ、パリに帰る』


コンビ名の「ナポレオンズ」は、
かのフランスの皇帝ナポレオン様からいただいている。
残念ながら無断借用である。
許可をいただきたかったのだが、
誰にどうやって許可を得ていいものやら、
さっぱり分からなかったのだ。
名前を無断借用の上に、
ナポレオン様の
「予の辞書に不可能の文字はない」
という有名な格言まで模倣、
「我々のマジックに不可能の文字はない」
というキャッチフレーズまで作ってしまった。
もっとも、デビュー当時はまるで仕事がなく
「我々のマジックに仕事はない」状態ではあったが。
とにかく、なんの挨拶もしないでは寝覚めが悪い。
そこで遅まきながら、
パリのアンバリッドにあるナポレオン様のお墓に
お詣りしましょう、という企画が持ち上がったのだ。
ありがたいことに、このフランス詣での様子を
テレビ収録していただくことにもなったのだった。

およそ10日間のパリでのロケ生活が始まり、
まずはナポレオン様が眠るアンバリッドに向かった。
広大な敷地の一角に、巨大な建物があった。
その建物内の中央部に鎮座ましましている棺桶、
といってもその見事な造形美は
まるでオブジェのようであった。
高さ2メートルほどの台座に乗った
巨大ながら美しい宝石箱、
とでも表現したらいいのだろうか。

我々の想像をはるかに超えて眼前に存在するもの、
未来永劫に存在することを確信出来るほどの
存在感を示している創造物に向かい、献花し頭を垂れた。
「勝手にお名前を拝借していることを
 お許しいただくと同時に、
 今後も続けてナポレオンズと名乗らせていただくことを、
 どうかお許し願います」
なんてセリフを考えていたのだが、
頭に浮かんでくるのは、
「本当にスイマセン、大それたことをしてスイマセン」
であった。
逃げるようにしてアンバリッドを後にした我々は、
次のロケ地であるセーヌ川のほとりへと向かった。
ロケの準備を整えて、まずは昼食を取ることにした。
セーヌ川を眺めつつ、
本場の美味しいフランス料理を心ゆくまで堪能しました、
なんてことはまるでない。
そんな楽しいことをしていたら、
昼ご飯を食べるだけで何時間も掛かってしまうではないか。
ゆえに現地コーディネーターにお願いして、
特別に日本食の弁当を用意してもらったのだ。
セーヌの流れを見つめながら
シャケをおかずに白いご飯を食べる、
なんとも複雑な思いではあるが、
これならばランチ・タイムは
20分もあれば足りてしまうのであった。
パリの名所旧跡を眺めつつのシャケ弁が続いたある日、
「もうオレはシャケ弁はイヤだなぁ、
 一度でいいからフランス料理を食べてみたいよ。
 いやいや、フランス料理でなくても洋食が食べたいなぁ」
ひとりのスタッフの独り言のようなつぶやきに、
ひとりまたひとり、
いったんは開けたシャケ弁のフタを戻し始めた。
アゼンとする現地コーディネーターの目の前に
シャケ弁を積み上げて、
皆晴れ晴れとした思いで街のレストランへと向かった。
パリ・ロケでの、たった一度の反乱劇であった。

パリ・ロケも終盤、
私が誤ってセーヌ川に落ちてしまうという、
大変なロケ日がやってきた。
なんせ夏はまだ遠い季節、セーヌの水はかなり冷たい。
どのくらい冷たいか調べるよう命じられた
AD(アシスタント・ディレクター)君が、
「すごく冷たいです」
と大きな声で報告したくらいであった。
しかし、たくさんの労力とお金を掛けた今回のロケ、
寒いからイヤだなどとは言えるはずもない。
一発勝負のセーヌ川へのダイブは、我ながら見事に成功!
「おいAD、すぐに車で小石さんをホテルに届けろ。
 お風呂に入れないと風邪引いちゃいそうだからな」
国際免許を持っているということで
今回のロケに参加を許されたAD君が、
車内でぼそっとつぶやいた。
「小石さん、実はオレ、国際免許は持ってないっすよ。
 捕まったらどうなっちゃうっすかねぇ」
なんとか無事にホテルへたどり着き、お風呂に直行した。
私は温かい湯に首まで浸かりながら、
はたしてセーヌ川で泳いだ日本人なんているのだろうか、
などと思った。

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2005-03-24-THU

BACK
戻る