MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

白い綿のようになったタンポポを吹いてみる。
ひとつひとつの種子に分かれて、
フワフワと風に吹かれて飛んで行く。
飽きもせずその行き先を追いかける。
追いかけつつ、私は様々なことを思い返していた。


『マジシャンは何処へ行く?』


休みをもらって、久々に里帰りをしてきた。
何も変わらない田舎だと思っていたのに、
知らない間に隣の市と合併していた!
といっても、まるで時が止まったかのような風景は
昔のままだ。
私の中では、市などでなく町でもなく、
村というのがぴったりなのだが。
実家の裏を10分も歩けば山に着く。
山といってもそんなに大きくなく、里山のようなものだ。
表側に歩けばすぐに川がある。
かなり護岸工事などはされているが、
流れる川面は子供の時に泳いだままのように美しい。
河原に降りて石を投げ入れると、
ドボ〜ンという音が大きく響く。
そうしてまたすぐに流れの音だけが戻ってくる。
古里の山も川も、ありがたい。

バブルの頃には、遠くの都会の人々のための
ベッドタウンになりそうだったらしい。
緑深かった山が削られ、
山肌がむき出しになったところもあった。
ゴルフ場になったところもある。
しかし、バブル崩壊のお陰で
なんとか昔からの姿を留めてくれている。
子供の頃は家の近所で遊び、
歩いて10分程の学校に通った。
高い建物がないので、自分の行動範囲が目視できた。
祖母と祖父、父と母、姉たち、隣近所の人たち、
皆が同じ空間に存在していた。
扉はいつも開け放たれ、
鍵で閉ざされたところなどなかったのだ。

故郷から離れて行った人は少ない。
私の家族を含め、ほとんどの人たちが
生まれ育った故郷で生きている。
あぜ道のタンポポのように、
そこから風に吹かれて違う場所に落ちても、
やはり故郷の土に戻り根を張るのは変わらない。
それなのに、なぜか私はフワフワといつまでも空を漂い、
見知らぬ土地に落ちてしまった。
今、はたして根を張って生きることが
出来ているのだろうか。
少しは根を張り葉を広げてきたかもしれない。
だが、こうして変わらぬ故郷の風景を前にすると、
ここに住む人々の根の張り方の強さを思い知ってしまう。

生まれ育った街を出て、更には日本という国も出て、
海外に場を求めたマジシャンがいる。
彼はいったい日本のどこに生まれ、
どこで育ってきたのだろう。
ずいぶん以前に知り合い、
あれこれ話す機会もあったのに、
これまで彼個人の生い立ち等を聴く機会を
持ててこなかったのだ。

どういういきさつでマジックに出逢ったのだろう。
マジックに傾倒し
天才マジシャンと賞賛されるに至った日々。
そうしてついにプロの道に踏み込み、
新たな人生を歩み始める彼。
だが日本のマジック界は
彼にとってまだ根を張る場所ではなかった。

彼は突然、日本という故郷を飛び出して
オーストラリアに向かう。
日本のマジック界という小さなコミュニティから、
当時では考えられなかったであろう
海外の舞台へと飛んでしまったのだ。
なぜ日本のマジック界で活動しようとしなかったのか、
なぜオーストラリアという地を選んだのか、
これもまた聞きそびれたままだ。
オーストラリアの劇場で
様々なエンターティナーたちに伍し、
マジシャンとして存在感を示した彼は、
更にアメリカへと向かう。
強大であったであろう米国マジック界でも、
彼はたちまち存在を知られることになる。

島田晴夫(1940年〜)さんはアメリカに根をおろし、
花を咲かせた日本人マジシャンである。
いつの日にか、あれこれ話を聴かせてもらいたいと
願っている。

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2005-03-13-SUN

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