MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

マジシャンに必須の条件は?
ちょっと前まではやはり技術であったかもしれない。
ところが最近はかなり事情が変わったらしい。
と言うことで今回のお題、


「美しい指先」


近ごろ世の男性マジシャンに流行るもの、
これすなわちマニキュアなり。
先日テレビを見ていたら、
男性マジシャンがゾロゾロと登場してきた。
それぞれが得意のマジックを披露するのだが、
その彼らの爪が皆一様に妖しく輝いているではないか。
ふ〜む、このような現象はかつては考えられなかった。
もしも、先輩マジシャン諸氏が
後輩たちのピカピカと光る爪を見たとしたら、
はたしてどのような感想をもらすのだろうか。
「まったく嘆かわしい。
 手品師たるものはまず第一に技術、第二も技術、
 三、四が無くて五に技術じゃわい。
 爪をピカピカさせたら腕前が上がるとでも言うのか、
 フン。
 だいたいそういう軽佻浮薄の輩に限って、
 しょうもない手品で満足するもんじゃ。
 爪はピカピカ、だのにその手品はツメが甘い。
 ははは、これは巧くオチがついたわい、
 うっふっふ、えっへん!」

まぁしかし、テレビ時代の今は見てくれが重要なのも
事実である。
かつてのように燕尾服を着て鳩を出すという、
マジシャンの典型的なイメージが
今後著しく変化するとしたら、
ひょっとするとピカピカのツメ、
マニキュアになるかもしれない。
そう思ってしまうほど
皆が皆、爪ピッカピカだったのである。

さて、最近とみに評判なのがマジシャンMである。
このところ立て続けに
自らがメインのスペシャル番組に出演し、
そのどれもが高視聴率を稼ぎ、
なおかつクオリティの高いマジックを展開している。
人気、実力どれを取っても今まさに円熟度No.1であろう。
そんなマジシャンMも、爪ピッカピカ・マジシャンである。
華麗なテクニック、エレガントな身のこなし、
優雅な語り口、そして爪ピッカピカ。
Mのスペシャル番組を観たマジシャンの誰もが、
Mのそんな魔力に魅了されたことだろう。

マジシャンにとって、技術や着こなしも重要である。
マジシャンMの完成度もまさにそこにある。
加えて番組を観た後に残る印象のひとつは、
やはりあの爪の輝きだったのではなかろうか。
実を言うと、かく言う私も
爪ピッカピカ・マジシャンのひとりである、あっはっは。
当然ながら、爪の輝きとテクニックの完成度とは
まったく関係がない。
だが、Mの見事なカードさばきや
観客のリアクションを見ていると、
あのピッカピカ爪がなんだか決定的効果を
もたらしているように思えてしまうのである。
となると善は急げ、マジシャンMから
あれこれマニキュアについての情報を聴き出した私は、
さっそくMの行きつけの店に直行したのであった。
美しいビルの4階にあるその店内はさすがに女性ばかり、
男性客の姿などどこにもない。
かなりの緊張感を強いられはしたのだが、
芸のためには我慢が肝心である。
「ご予約の小石様ですね、どうぞこちらへ」
40分ほどで丁寧にマニキュアをしてもらい、
両手を胸元あたりでひらひらさせながら
ソファーで爪が乾くのを待つ。
対面に座っている女性客が、
なんだか不快な表情をしている。
女だけの聖域を侵されたことに
抗議の視線を送っているように思える。
だがこれもきっと私の思い過ごしであろう。
とにかく、こうして私もめでたく
爪ピッカピカ・マジシャンの仲間入りとなった。
あとは手品の練習だけである。
1時間ほどでマジシャンMのような
華麗なテクニックを伝授してくれる、
そんなお店は知らないかい?
ねぇ、Mくん。

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2004-11-09-TUE

BACK
戻る