MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

前回、たった一日で終わってしまった
ツアーの続編であります。
なにかが起こりそうな夏に、
なにかを求めて旅をするマジシャンであったが‥‥。
さてさて今回のお題、


続『夏のマジック・ツァー』


博多の駅前のホテルを
8時50分にチェック・アウトした我々は、
すぐさま新幹線ホームへと向かった。
9時22分博多発、のぞみ22号で名古屋へと向かうのだ。
海外で暮らしている友人がいる。
彼もまたマジシャンだ。
数年前、彼は久しぶりに日本に里帰りした。
夜、東京から大阪へ行こうとした彼は、窓口で
「大阪まで、いちばん早く行けるのは
 何時のひかりですか?」
と尋ねた。駅員さんは丁寧に
「まだ、のぞみがありますよ」
と答えたのだが、彼は新幹線の、
のぞみの存在を知らなかった。
新幹線はこだまとひかりしか無いと思っていたのだ。
だから
「まだ、のぞみがありますよ」
「良かったぁ、何時のひかりですか?」
「いや、ですから、まだのぞみがあるので、
 そっちの方が早いですよ」
「はぁ?
 望みがあるのは良いけど。
 で、何時のひかり?」
なんて押し問答を繰り返したらしい。
さて、のぞみ22号の9号車、13のAの席に座った。
これから名古屋まで行って、
ひかりに乗り換えて浜松へと移動するのであった。
ホームで買った、博多めんたい弁当を食べた。
ごはんがめんたい炊き込みごはん風で、
おかずももちろん、めんたいであった。
朝から弁当、食べながらため息が出た。
浜松で降り、お迎えの車で仕事先に向かった。
今日は、某自動車メーカーの夏祭りにゲスト出演するのだ。
我々の前に、ペナルティ、
二丁拳銃などの若手コントが出演するという。
ステージ横で彼らのコントを観た。
野外ステージはすごい数の人で埋め尽くされていて、
ワ〜ワ〜キャ〜キャ〜であった。

さて我々の出番である。
まだ陽がギラギラと照りつけている。
マジシャンは、あまり直射日光の下では
演技しないものなのに。
今回は不思議なマジックを続けたのだが、
陽光サンサンの下ではなんだかミステリアスでないなぁ。
「さぁいよいよ我々の代表作、
 『あったま・ぐるぐる』だぁ!
 このトリックの秘密を見破った人は、まだいな〜い!」
と、もったいぶってやったのだが、
「あ〜、分かった分かったぁ!」
などと子供たちが一斉に叫んだ。
冗談の分からない子供たちめ。
2回目のステージの頃には日が暮れていた。
やれやれこれで怪しい雰囲気、
マジックに相応しいムードになってきた。
ところが、日本列島に接近しつつある台風のせいか、
ステージにも強風が吹き荒れているではないか。
頭ボサボサ、用意したネタ付きの新聞とハンカチは
どこかへ飛んで行ってしまった。
なんとかステージは終了、浜松駅まで送ってもらう。
20時59分のこだまで名古屋へと移動、
今宵の宿は駅前の高層ホテルであった。
43階の部屋、素晴らしい眺めである。
外へ出掛ける気力もなく、ルーム・サービスを頼んだ。
「白ワインのハーフ・ボトルと特製パスタをお願いします」
「かしこまりました。
 ワイン・グラスはおいくつご用意しますか?」
「はぁ、グラスはひとつ、です」
「かしこまりました、おひとつですね」
電話の向こうでカラカラと明るい笑い声が聴こえてくる。
土曜の夜、高層ホテルの43階、
よく冷えた白ワインにパスタ。
なのに、ひとり、だもんなぁ。

9時58分ののぞみ7号で岡山に向かった。
目的地の総社市までは岡山駅から車で40分ほど掛かった。
車内で担当の先生が、古墳跡とか神社仏閣などを
レクチャーしてくださった。
「あれが前方後円墳ですなぁ。ホレ、あちらにも」
「へぇ〜、あれが古墳ですか?」
「いや、あれはただの畑ですなぁ」
などと実りのある会話が弾んだ。
総社市市民会館に着いた。
今日は1時間の文化講演である。
我々は講師なのであった。
演台を前にマイクに向かうと、
なんだか偉くなったように錯覚するから不思議だ。
なぜか大人が間違えてしまう算数や漢字の読み違いなど、
不思議の効用をたっぷりと述べたりしているうちに
1時間はアッという間に過ぎてしまった。
車で岡山駅に戻り、17時05分ののぞみに乗った。

旅というほど心ひかれるものではないし、
大した思い出にもならないいつもの夏のツァー。
だけど、たった一度でもある今夏のツァーは、
猛烈なスピードで終点へと向かっていった。

(おわり)

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2004-09-19-SUN

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