MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

マジシャンは密かに悩んでいます。
だけど密かに悩んでいてもつまらないので、
この際話してしまいましょう。
題して


『マジシャンの抱える矛盾』 


マジシャンは、常に新しい技法
(マジックを不思議に見せるためのテクニック)を学び、
あるいは創作し練習しなければならない。
簡単にマスターできるものばかりなら楽なのだが、
いくら練習を重ねても完成しない難しい技法もある。

どんな技法でも、完成していなければクズである。
完成して始めて披露するもので、
80パーセント出来ているからそろそろ発表しましょう、
などというものでもない。
しかも見ている観客に不思議な気分を抱かせるには、
技法の存在など微塵も感じさせてはならないのだ。

技法が完成し、その技法を駆使したマジックを披露する。
観客が、あまりの不思議さに
目を丸くしたままになっている。
そんな時、マジシャンは嬉しさのあまり
「ひょっとすると、私は天才なのかもしれない」
などと思ってしまう。それくらい嬉しい瞬間だ。

ところが、そんなマジックを何度も見せ続けていると、
ふと
「まぁ驚いてくれるのは嬉しいんだけど、
 私がこれほど高度で難しい技法を用いているなんて、
 まるで知らないんだろうなぁ」
などと思う。そりゃそうだ
「な〜るほど、このマジックには
 かなりの技法が使われているんですねぇ」
などと言われたとしたら、
そのマジックのトリックはバレバレである。
マジシャンにとって
観客の「はは〜ん」とか「な〜るほど」とか
「あっ、分かった」などという言葉ほど
ショッキングなものはないのだ。

いかに苦労してマスターした技法であるか
理解してほしい、
しかし、その技法の存在など
微塵も気づかずただひたすら驚いてほしい。
この矛盾を解決する方法などあるはずもない。

そんな矛盾を抱えたマジシャンが向かう先は、
旧知のマジシャン仲間である。
自慢の技法を使って、鮮やかなマジックを演じてみせる。
マジシャンであるから、
「うへぇ、すんごい不思議ですねぇ、えぇぇぇ〜??? 」
などと驚いてはくれない。その代わり、
「う〜む、実に見事な技法ですねぇ。こ
 のくらい見事だと、こりゃ驚きますよねぇ。
 う〜む、結構なテクニックを
 拝見させていただきましたよ。ふふふ〜ん」
同業者にここまで感心してもらえば、
苦労してマスターした甲斐があったというものである。

調子に乗ってあちこちのマジシャンに見せて廻る。
ところが、皆が皆一様に感心し
誉め讃えてくれるとは限らないからまたまた困る。
「う〜ん、その技法なら
 こっちの方が効果的だと思いますよ。
 まぁかなり難しいから
 マスターするのは大変ですけどねぇ」
とか
「ふぅ〜ん、なるほど。
 まぁそれならシロートの人には
 不思議に見えるかもしれないですね」
などと辛辣な言葉を投げつけるマジシャンも出てくる。

 傷ついたマジシャンはしみじみ思う。
「やっぱりマジックはマジシャンに見せるもんじゃない」

こうしてマジシャンは再びフツーの世界に戻ってくる。
めでたしめでたし!?

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2004-08-15-SUN

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