MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

香港物語


6月某日、我々ナポレオンズは香港に行くことになった。
早朝6時に車で都内を出発、8時には成田に到着した。
香港へは我々だけではなく、落語家のH家Kん平師匠、
その愛弟子のHらりさんも一緒、
つまり今回の香港への旅は
「H家Kん平師匠ご一行様」なのであった。

このツアーの日程であるが、香港一泊二日であった。
ちょっと行ってすぐに帰って来てねツアー、なのであった。
ともかく、成田発午前10時の飛行機で
香港へと飛び立った。
香港まではおよそ4時間半の空旅、
席のほとんどが埋まっていた。
周りを見渡すと、意外と観光客の姿が少ない。
ほとんどが商用と思われる人々ばかりであった。
観光か商用かいったいどこで判断するのか、
これは実に簡単な方法があり、
まずは人々の表情を見るのである。
着ているものや持ち物より、まずは表情なのだ。
当然ながらこれから観光だわ〜い、などという
人々の表情は明るく輝いている。
恋人と二人っきりの香港一週間、なんていう
ツアーだっったりした日にゃぁ、
あ〜た、でへへへ状態に決まっている。
また、いつもの商用に出掛けるという人々は
落ち着いたものだ。
ところが、今回たまたま仕事で
香港に行かなければならないという人々は、
ついつい浮かない表情になってしまうのだ。
つまりは「H家Kん平師匠ご一行様ツアー」の面々、
我々の表情たるやまさにその典型なのであった。

それにしても海外公演である。
旅支度の面倒あれこれは忘れて
香港での高座が楽しみになってくる、芸人なんですねぇ。
飛行機はソフト・ランディングして空港に到着、
現地スタッフに出迎えられた。
「入国カードは書いてありますか?」
と英語で尋ねられたので、
「もう書きました」
と私が英語で答えると、Kん平師匠は
「すごいねぇ、ナポさんは中国語も分かるんだぁ!」
と、いたく感心していた。
いやいや師匠、これって英語ですよ。

会場であるSごうボール・ルームに到着した我々を
待っていたのは、出番前の軽食であった。
これが、おにぎり!
まさか香港に来ておにぎりとは!
しかも、このおにぎりは香港製で
「木魚」、「三文魚」の2種類があった。
さて「木魚」、「三文魚」とは?
「木魚」とは「おかか」でありました。
まぁ確かに、かつおぶしを削ったものは
おがくずにソックリだもんね。
また「三文魚」とはシャケだったのですよ。
こちらは音から来ている。
つまりサーモンを漢字で表記しているのであった。
「木魚」と「三文魚」をいただいた我々は、
元気よく高座を勤めたのでありました。
たくさんの日本の方々(香港在住)が、
多いに笑って喜んでくれた。
600人が入る会場に700人もの方々が!
なんと100人は立ち見なのであった。
それでも最後まで参加していただき、
本当に嬉しい高座になった。

たった一泊の香港旅行は夢のように過ぎた。
滞在したホテルを出て空港まで送っていただいた車内で、
S新聞社のNさんが呟いた。
「私は大学を卒業当時、
 実はイタリアで歌手になりたかったんですよ。
 まぁ、事情があってその夢は諦めましたけどね。
 だから、やりたいことをそのまま仕事にして
 続けておられる方を見ると、眩しいんですよ」
Nさんはきっと充実した仕事をされているに違いない。
人は仕事が充実して忙しい時、
ふともうひとつの自分の人生、
選べなかったもうひとつの人生を想ってしまうものだから。
ひとつの人生はひと時も止まらず、
もうひとつの人生は過去に止まったままだ。

飛行機はNさんのもうひとつの国、日本へと飛び立った。

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2004-07-04-SUN

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