MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

「25年前のナポレオンズ」



2月27日、赤坂キャピタル東急ホテルにおいて、
「ナポレオンズの受賞を祝い励ます会」を
催していただきました。
これは、昨年の11月に公演したリサイタルに対して、
文化庁から芸術祭優秀賞をいただいたのを
記念しての会でした。
長くやってると、善いことがきっとある。
深い感慨に浸りつつ、
そのリサイタルのパンフレットに掲載した
「ご挨拶ならびに御礼の言葉」であります。

「なぁ、今度アシスタントをやってもらう女性と
 会うんだけど、一緒に来ないか」
あまりに昔のことで、時間も場所も覚えていない。
なぜ植木が僕に立ち会いを依頼したのか、
なぜ僕が承知したのか、もうさっぱり思い出せない。
とにかく僕は植木とともに
その女性の待つ喫茶店へと向かったのでした。
薄暗い店内で、その女性はすでにコーヒーを飲んでいた。
足を組んでタバコをくゆらせ、
入ってきた我々に煙たそうな視線を送ってきた。
それから何を話し、どのくらい時間が過ぎたのか、
やはり思い出せないでいる。
「なぁ、どう思う?」
喫茶店を出て駅に向かう途中、
植木が不安そうに聞いてきました。
その声の低さに、
「あの女性とは、難しいかもなぁ」
という意味が込められていたような気がしたものです。
当時、プロ・マジシャンは
男女二人という組み合わせが多かったのでした。
男性がメインのマジシャンで、
女性はそのアシスタントというわけです。
すでにプロとして初出演する場所も
日にちも決定していた植木にとって、
残るはアシスタントをしてくれる女性を
探すことだけでした。

しかし、これならばという女性は
容易に現れてはくれませんでした。
「いっそのこと、あんた、
 アシスタントをやってくんない?」
植木は突然に奇妙な提案をしてきました。
「もう初仕事の日はすぐだし、
 アシスタントなしっていうわけにもいかないし、
 ネタによっちゃぁ一人では出来ないしさ」
なぜ引き受けたのか、これまた思い出せない。
「うん」
こうしてナポレオンズの25年はスタートしました。
辛いこと、悲しいこと、苦しいこと、
いっぱいあったはずなのに、本当に覚えていない。
こうして振り返ってみても、
なんだか夢のように過ぎた25年でした。
だけど、だからこそ続けられた
25年だったのかもしれません。
「大した芸もないのに、四半世紀」
これからも、大したことはやれないと思います。
でも、25年前の私たちがそう考えていたように、
今日より明日はもうちょっと良いマジックが
出来るような気がするのです。
大した芸もないけれど、
どうか今後ともよろしくお願いします。

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2004-03-08-MON

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