MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

人それぞれ、友情のタイプとでもいうのだろうか、
違うような気がする。
時とともに忘れるどころか、
年月を経るごとに色濃くなってくるような、
あいつとの友情。
今回、ちょっと切ない友情物語、


「ゴーちゃん、I love you ! 」


ゴーちゃんは友だちである。
相当に善人である彼は、
私のようなしょうもない人間とも
友人関係を築いてくれた。
ゴーちゃんは長身のうえに足長であった。
ガッシリとした体型に
明るい色のジャケットが似合っていた。
当時としては珍しい茶髪
(染めていたわけではなく、天然だった)で、
まるでモデルのような、
ホストのような雰囲気を醸しだしていた。
なのに性格はものすごく優しくおとなしく、
まさにオオカミの皮をかぶった羊なのであった。

大学2年生になったばかりの頃、
私はそれまで住んでいたアパートを
退きはらうことになった。
ちょっとばかり重症の金欠病に罹ってしまったからである。
だから次のアパートを借りる金などあるはずもなく、
ただアパートを出ることになってしまった。
こうなると頼りはいつもゴーちゃんなのであった。
「いいよ、いつでもこいよ。オレんとこで良けりゃ」
ゴーちゃんのアパートは西新宿の6畳一間であった。
なんせ日あたりが悪い、というより
日あたりがない部屋だった。
朝目覚めると
(実際は朝なんだか昼なんだか判断できないのだが)
まずは外に出てみて天気を確認するのが
日課のひとつになった。
なんせ部屋にいたのでは晴れなんだか雨なんだか、
さっぱり分からないのだった。
二人とも金がないのが常で、
そのため「金がなくて困った」などという
ゼイタク(?)な悩みなどなかった。
つまりは、金がないのが完全に日常化していたのだ。

とはいえ、ゴーちゃんは
元々ビンボーであるわけではなかった
(それゆえ私のような者を同居させてくれていたのだが)。
彼はくる日もくる日もアルバイトに明け暮れていた。
デパートの食品売り場で、
「奥さん、今日はソーセージが美味いよ。
 どう、ちょっと味見してごらんなさいよ」
だったり、
「そこの奥さん、美容と健康にリンゴはいかが?
 まぁ奥さんの場合充分に美しいから、
 健康ひとつに絞って、どう?」
だったりしていた。
したがって現金収入はあったのだ。
だが、ゴーちゃんはおしゃれがなにより大好きで、
丸井のクレジットで
やたらに洋服を買ってしまうのだった。
一着数千円の支払いでも、
十着以上も買ってしまうのだから大変だ。
収入が洋服代に消えるとなると、
食事代が問題であった。
お米は、ゴーちゃんの実家の長野から
送ってもらっていて潤沢だった。
だから、来る日も来る日も納豆だけで過ごしていたが、
それはそれで満足していたのだから、
若さというのは素晴らしいような恐ろしいような。

当時、ビール瓶を酒屋に持っていくと5円になった。
そこで、夜になると
二人でアパートの近くをウロウロと歩いて
空き瓶拾いを始めた。
それで得た小銭を貯めて、酒なども呑んだ。
酔っ払って、また瓶拾いなどするのだが、
「おい、あそこにたくさん落ちてるぜ」
ゴーちゃんの指の先には、
確かにビール瓶がゴロゴロしている。
しかし、そこは酒屋の裏庭なのだ。
ビール瓶は落ちているのではなく、置いてあるのだ。
だが背に腹は代えられない、しばしば戴いてしまった。
後年その酒屋さんの近くを通った際、
ちゃんと昔のままに営業していて、
ずいぶん安心したものだ。
勝手な思いだが、
なんだか過去のビール瓶置き引きの罪が
許されたように思えたのだった。

ゴーちゃんの恋人が夕ごはんを作りに来るという。
私は当然その夜は別の友人のところに
転がりこもうとしていた。
「彼女も3人分作るって言うしさ、
 お前にいてもらった方が楽しいじゃん」
あくまで友情に篤いゴーちゃんであった。
だが、やってきた彼女は
私の存在を知って明らかに失望したようだった。
手料理をありがたくいただくと間もなく、
「じゃぁ、わたし、そろそろ帰るね」
私はかなり狼狽して、
「おいゴーちゃん、駅まで送ってやんなよ」
と、余計なおせっかいをした。
「じゃぁ、ちょっと行ってくるよ」

「彼女、楽しかったってさ。よろしく言ってたよ」
帰ってきてそう笑うゴーちゃんの左のホッペに、
赤い手のひらのあとがあった。

2003-05-08-THU

BACK
戻る