MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

映画「ハリー・ポッター」のヒットのお陰か、
子供たちの見てみたいもの、やってみたいもの、
それはなんとマジックだという、どうりで忙しい訳だ。
そんな状況に感謝しつつの今回、


「子供たちこそ、魔法使いだよ」


去年の7月のこと、
お父さんは5才になる男の子を
あるマジック・ショーに連れていきました。
男の子はおとなしく、
でもショーを楽しんでいるようだったそうです。
さて時はまたたく間に過ぎて、
クリスマス・シーズンがやってきました。
「ねぇ、サンタさんには何をお願いする?」
お父さんが尋ねると、男の子は
「マジシャンの帽子だよ」
と答えたのです。
お父さんは驚いてしまった。
彼は夏に子供をマジック・ショーに連れていったことすら、
すっかり忘れていたのです。
でも、子供の心の中には
あの夏のマジック・ショーのことが
しっかりと記憶されていたのです。
マジシャンの帽子、シルク・ハットは
なんとかサンタさんが見つけてくれたようで、
ちゃんと男の子の枕もとに届きました。
男の子は飽きることなく
マジシャンの帽子に話しかけるのでした。
いつの日かあの日のマジシャンのように、
シルク・ハットから鮮やかに
ハトを出すことができることを夢見ているのでしょう。
お父さんとサンタさんに頼まれて、
なんとかシルク・ハットを手配できた私にとっても、
なんだか嬉しい出来事になりました。

山上兄弟、7才と8才のギネス・ブック認定
最年少イリュージョニスト
(大掛かりなネタを演じるマジシャン)である。
マジシャンである父親の指導を得て、
信じられない大ネタを軽々と演じてしまう。
我々ナポレオンズとの共演も多くなって
嬉しいかぎりだが、なんといってもまだ子供である。
午後3時くらいのステージになると、
演技が実にけだる〜くなってしまう。
目をこすりこすり、
フラフラとネタ箱に入る様子が可愛いくてたまらない。
テレビ出演も多くなって、
あちこちのイベントに呼ばれる人気ぶりであるが、
実は仕事をすればするほど赤字なんだとか。
子供だから自分で仕事先に行く訳でなし、
道具を運ぶ訳でなし、
多くのスタッフを同行させることになる。
つまりは人件費ばかりがかさんでしまうらしい。
彼らの得意は大ネタである。
しかし、子供サイズの大ネタはずいぶん可愛いサイズだ。
これって大ネタ?
それとも小ネタ?

鹿児島へのフライトは午前7時25分、
私は自分の席に着いた。
早朝の便にもかかわらず、満席のようであった。
今月だけで、すでに何度ここから飛んだことだろう。
それらの旅のほとんどが日帰りで、
機内誌もあらかた読んでしまっている。
またいつものフライト、少し眠ろうか。
ウトウトして気付くと、
早くもシート・ベルト着用のサインが消えている。
シートを少し倒してもうちょっと眠ろうとした。
突然、私の席の後ろの席が急に騒がしくなった。
男が声高に叫んでいる。
同行しているらしいもう一人の男も言い返している。
声の若い方の男は、かなり感情を高ぶらせてきた。
年長の男はそれを静めようと冷静な口調に努めてはいるが、
やはり徐々に苛立ち始めているようだ。
振り向いてみたいのだが、男たちの口論の激しさに、
それも躊躇してしまう。
そのうち、若い男が席を立とうとしているようだ。
もう一人の男がそれを強く咎めているのだが、
若い男は更に激しく声を荒げ、
止めようとする男の手を振り解こうとしている。
それらの気配が、シートの背から響いてくる。
こうなると眠っているどころではない、
ドスンドシンという衝撃が伝わり始めた。
キャビン・アテンダント(スチュワーデスさん)が
駆けつけてなんとかなだめようとするのだが、
事態は少しも改善されない。
それどころか、席を立った男は
アテンダントを追うように機の前方に向かった。
姿は見えないのだが、
今度はアテンダントを困らせているようだ。
何かを叩いているようで、バタンバタンと音がしている。
連れの男が前方に向かった。
しかし、バタンドスンという音はいっこうに止まない。
信じられないことに若い男、
あいつはとうとう操縦室のドアを叩き始めたらしい。
私の不安は一気に増大した。
いったいこの先どうなってしまうのか。
突然、ひとりの女性が前方に走りでた。
そして、あいつの腕を強く掴んで叫んだ。
「あきちゃん、いいかげんにしなさいっ。
 お母さん、怒りますよっ」
あいつ、あきちゃんがウェ〜ンと泣きだした。

2002-12-05-THU
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