MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

「欠点」


最近、我々ナポレオンズの重大な欠点に気付いてしまった。
それは千葉の飯岡というところで
1時間のショーを終えた直後のことである。
ある知人が楽屋を訪れ開口いちばん、
「いやぁ、相変わらず楽な仕事してるねぇ」
そうです、僕らの仕事は楽に見えてしまうという
致命的な欠点があったのだ。
これまでも何度かそんな誤った指摘を受けてはいたが、
あまり気に止めることはなかった。

なのに今回、「楽な仕事してるねぇ」の言葉が
心につき刺さってしまった。
飯岡を初めて訪れたのは、もう20年以上も前のことだ。
あの永六輔先生が、
売れない面白くない上手くないマジシャンを憐れんで
回していただいだ仕事、
それが飯岡の青年団主催のイベントだったのだ。
会場を埋めている老若男女に、永先生が説明を始める。

「いいですか皆さん、これから出てくるのは
 プロ・デビューしたばかりのマジシャンです。
 これから有名になる人を、飯岡の皆さんに
 真っ先に見てもらおうと連れてきました。
 なぜ飯岡に最初に連れてきたかというと、
 飯岡の皆さんは芸を見る目が確かだからです。
 このナポレオンズのセンスは
 ちょっと先を行っているものです。
 だから、きっと今日の皆さんには分かってもらえるはず。
 もし分からない人がいたら、遅れてるんですよ。
 で、ひょっとするとヘタに見えるかもしれませんが、
 ワザとですからね」

ここまで言いきっていただいてしまえば、
どんなしょぼいマジックだってウケてしまいます。
自信のカケラもなくしていた我々は、
見事に永先生に救われたのでした。
そんなご縁でその後も
幾たびか声を掛けていただいたこともあり、
飯岡の皆さんのお誘いは
いつでも何でもありがたく受けなければならないのです。

ところが今回のイベント、なるべく長くやってほしい、
幼児からジジババまで広い広い広すぎる観客の年齢層、
出入り自由子供野放し、という状態。
それで1時間やってみると、いやはやエネルギー使いきり。
ヘロヘロになって楽屋に戻った直後に、
「いやぁ、相変わらず楽な仕事してるねぇ」
って・・・。

Mというマジシャンは、すごく汗をかく。
登場して数分後には、
まるでサウナに1時間こもっていたかのようである。
本人はそれを気にして汗対策をあれこれしているようだが、
流れる汗は一向におさまる様子がない。従って、
「いやぁすごい熱演、感動しました! 」
見ている観客までが汗ばんでしまう。
M本人に聞いたから間違いないが、
汗をかくのはただ単に体質の問題であって、
別に熱演の結果でもなく緊張のせいでもない。
だが、それでも流れ出る汗が演技を熱演に見せてしまう。
アメリカの某マジシャンは、出番の直前になると
ライターの火などで自らの腕を焼く。
当然ながらヤケドしそうになり、
額あたりにうっすらと汗が浮かびあがる。

そこでステージに登場するや、
異様にハイ・テンションの
マジシャンの出来上がりというわけだ。
ライターであぶるというのも気がひける。
かといって急にMのような体質に変われるわけもない。
しかし、このままではいくら熱演しても
「あっはっは、お気楽なもんだねぇ」
などと誤解され放題ではないか。
過去の名人上手と謳われた師匠の方々の評判を伺うと、
「枯れた話しっぷり」「洒脱だねぇ」
「ひょうひょうとしててさ」
などの表現で称賛されたりする。

だが、「楽な仕事っぷり」と
「枯れた、洒脱、ひょうひょう」との間には、
これまたながいながい道のりがありそうだ。
しばらくは、
「相変わらず楽な仕事してるねぇ」
という評価に甘んじるしかないが、
その楽に見えてしまう我々の演技にダマされて、
弟子入りを志願するのはよしてもらえないだろうか。
毎年数人の方々が、弟子入りを希望してくる。
話を聞いてみると皆、
汗をかかないでサッパリと仕事したいと
願っているように思える。
「ナポレオンズさんのような(楽な仕事する)
 マジシャンになりたいっす」
と言われているかのよう。
現に長続きした人はこれまでひとりもいないしなぁ。
というわけで、今回この「ライフ イズ マジック」を
お読みいただいた方々は、
「楽そうに見えてても、実は熱演してるんだなぁ」
と思い直して我々の演技をご覧いただきたい。
この場をお借りして切にお願い申し上げます。

某読者談
「相変わらず楽な文章、書いてるねぇ」

2002-05-26-SUN

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