MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

「夢」


ずいぶん以前に、
若手マジシャンたちとライブをやりました。
途中のところでトーク・コーナーがあり、
テーマは「マジシャンの夢」でした。
司会役の僕は、
ひょっとしてこのコーナーがいちばん盛り上がるかも、
と思っていました。

「さぁテーマは『夢』。
 さっそくA君、B君に聞いてみましょう!
 ではまずA君! 」
勢いよくマイクを向けました。
「えぇっと、あの、もっと仕事が欲しいっす」
ぬぁにぃぃぃ、仕事が欲しいだとぉ。
そんなの夢でもなんでもないよっ。
若手とはいえ、いっぱしのプロのなら
仕事をもらうのが夢じゃ困るんだよ。
あるだろホラ、ラスベガスでショーをやってみたいとか、
ダンサーなんかも従えて一座を組んでみたいとか、
そういうデカい夢が! 
頭の中で毒づいていました。
いかんいかん、
ライブの雰囲気までえらく冷えてしまいそうだ。
「そうかぁ、なるほどねぇ」
僕まで訳の分からないコメントになってしまった。
なにが「なるほど」なんだ。
Aのようなヤツはほっといておこう。
気を落ち着けて、マイクをBに向けた。
つとめて明るく元気よく、
「B君!
 ひとつド〜ンと夢を語ってもらおうでないの! 」
向けられたマイクに、
「そうですねぇ、車が欲しいです。
 今は買えないんで、ネタを持ち歩くのがしんどくて」
く、く、くるまぁぁぁ、
それが人前で語る夢ってぇものかぁぁぁ。
僕の心は、茶ぶ台をひっくり返す星一徹の心理状態に。
しかし、精神的には刀折れ矢尽きていて
「ありがとう。
 二人に、プロとしての夢を語ってもらいました」
締めてしまった。
30分程度を予定していたトーク・コーナーは
5分であえなく幕となりました。
バカヤロ〜!!!

「いま時の若いもんの気持は分かんないねぇ」
そう思い始めると
立派なオヤジになったしるしらしいけど、
そうしみじみ感じてしまう。
僕らは夢を問われると、
「やはりマジック・キャッスル
 (米国ロサンゼルスにサンゼンと輝く
  マジックの殿堂であり、
  その舞台に立つのは大変な名誉です)に
 出演したいです!」
などと答えたもんです。
そう言いながら、
「ムリだよムリ、成田だって行ったことないのに」
な〜んて思ってたなぁ。
(それはそれで情けない話ではあるけれど)
当時、マジック・キャッスルやラスベガスなどの夢の話は、
限りなくホラ話に近いものでした。
それが幸運にも時代や人が味方してくれて、
キャッスルにもラスベガスの舞台にも
立つことができました。
ホラ話はいつの間にやら現実のものとなりました。

そうなると続いての夢は? となるのですが、
第1第2ロケットを切りはなして
一定軌道を周回しているような状態であります。
どこが目指す夢の方向なのかサッパリ、というのが
正直なところでありまして。
「ではナポレオンズの二人の夢は? 」
などと聞かれたら、
「そうですねぇ、新しいネタが欲しいっす」
「デパート行って買ってこいっ、バカ! 」
なんて展開になり、
かつてのA君B君そのまんまだったりして。

僕らの師匠であった初代引田天功先生は、
大きな夢を抱いていました。
あのナイヤガラの滝からの命を賭けた大脱出、
というマジックでした。
晩年、先生は様々な苦悩を抱えていて、
まさに八方塞がりでした。
そんな先生の心をしっかりと支えていたのが、
「ナイヤガラの滝からの大脱出」
という夢だったのです。
まさに一発大逆転のカード、切り札なのでした。
切り札であったはずのカードは、
夢とともに永遠に天功先生が持っていってしまいました。

叶わないからこそ、夢なのでしょう。
ならばここはでっかく、
「米国ロサンゼルスのマジック・キャッスルを買い取って、
 都内のどこかに移築しよう! 」
華麗なマジック・ライブが連夜繰りひろげられる。
美味しいディナーのテーブルに、
鮮やかなテクニックをみせてくれるカード・マジシャンが!
バーには人々の歓声が満ちている。
そんな夢のお城、マジック・キャッスルの
オーナーになりたい。
(おいおい、自分はマジックはやらんのかいっ)

2002-02-11-MON

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