MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

以前、
「大ネタ暴露で世界のマジック界をシンカンさせた
 マスク・マジシャンの正体は、
 ナポレオンズのボナ植木である」
と書きました。
相棒が僕に内緒でアルバイトしている、
と思っていたのです。
ところが、そのマスク・マジシャンが再び来日し、
以前にも増して過激なネタバラシをするという。
さっそく、その正体を暴いてやろうと
スタジオに向かった僕の前に現れたのは、
ずいぶんとおとなしいアメリカ人マジシャンであった。
いやぁ相棒よ、疑って悪かった。
とにかく相棒がひとりで稼いでいるんじゃなくて
良かった、などと安心してる場合かぁ!
(業界用語で『ひとりボケ・ツッコミ』です)
いったいマジック界はどうなってしまう?
などと憂いつつの今回、

「バラすべきか、バラさぬべきか? 」

このところ、テレビでマジックを見る機会が多い。
実に結構なことではあるが、
そのほとんど(全て?)がタネ明かしなのだ。
その点がなんともはや、つらいところなんですねぇ、
マジシャンといたしましては。
「オモテの芸はともかく、裏側は面白いっすねぇ。」
なんて言われてるような。

普通にマジックを放送するのとタネ明かしとでは、
視聴率がひとけた違うという。
オモテ芸で8%がタネ明かしだと18%、では
勝負にならない。
「もっともっと、バラしちゃいましょう!」
プロデューサーの指示はますます明快だ。
「だって、ナポレオンズは
 ずっとタネ明かしをやってきたじゃん。」
そうなんです。
怒られても叱られても、必ずタネ明かしをやってきました。
でも、どうタネ明かしすれば面白いか、
ヒ〜ヒ〜考えてきたつもりだけどなぁ。

先日、某局で
古〜い和妻(わづま・日本の古典手品のこと)の
タネ明かしが放送された。
手品師の両方の親指をしっかりと結わいてしまい、
離れなくする。
そこに日本刀を振りおろすと
刀は通過してしまうという荒技であります。
さすがにこれには、日本奇術協会から抗議が来たらしい。
プロデューサーがボヤきます。
「いったい、タネ明かしをしていいのと
 いけないネタの区別をどこですればいいんだい。」

明快な答えがないのです。
デパートで売っているマジックをタネ明かしすると、
営業妨害で訴えられるかもしれない。
買ってきた推理小説をテレビで、
「犯人は○○だよ」
と叫ぶようなもの。
また、考案者からクレームがあるかもしれない。
でも、そういうマジックは数えられるほど。
その他の多くは誰がやっても
法律上なんの問題もないのです。
もし仮に訴えられ有罪となっても罰金で済み、
その金額は5万円が上限だとか。

アメリカで放送されて物議をかもした
マスク・マジシャンも、
なんら訴えられることなく今日に至っている。
しかも、彼のタネ明かし番組は
アメリカのマジック史上最高の視聴率を
獲得してしまったのだ。
タネ明かしは、
視聴率を稼ぐ絶好のソフトという結果が出てしまったのだ。
そうなるとマスク・マジシャンの来日も時間の問題、
日本テレビで数回にわたって放送されたのだ。
視聴率も好調と聞いている。
あれやこれや、結局は視聴率が大幅に下がるまで
タネ明かし番組は続くに違いない。
以前新聞で読んだ話題で、
ある村の山に珍しい山菜が採れる場所があって、
村人たちが公平に分け合っていた。
また、決して採りつくしてしまうこともなかった。
それが最近、ある村人が根こそぎ採って
売ってしまったのだという。
これまで山菜は村の共有財産で、代々大切に守られてきた。
そのタブーがあっさりと破られてしまったことこそ、
村人たちには衝撃なのであった。
これを読んで、なんとなく我が業界の現状と
ダブらせてしまう僕でありました。
これまで、タネ明かしはマジシャンの
もっとも重大なタブーであり続けました。
そのタブーが、やはりあっさりと破られてしまったのです。
マジック村で静かに平和に、
様々なタブーに守られた秩序のなかで暮していた時代は、
もう過去のものになってしまった。

「バラし尽くした後は、どうするつもりなんだ?
 マジック界はどうなるんだ? 答えろ!」
僕はマスク・マジシャンに激しく詰めよったのでした。
しかし、彼はただ静かに首を振るのみ。
やはり日本語は分からないらしい。
(ツッコミたい方は、画面にお願いします)

2001-11-18-SUN
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