MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

暑〜い日々が続いております。
年々、暑さが堪えるような。
それとも本当に、年々暑さが増しているのでしょうか。
この暑さがスゥ〜ッと引いていくようなマジックがあれば
ウケるのですが、そうもいかないんですよ。
そこで、突然ながら寒い寒い冬の北海道の思い出話を
暑気払いがわりに一席。題して、

「納涼・北海道には本物の冬があったよ。」

1978年くらいだったでしょうか。
我々ナポレオンズは、
初めての北海道ツアーを開始したのでした。
プロ・デビュー直後のことでもあり、
1ヶ月という長旅も真冬の北海道も
すべてが初めての体験でありました。
東京から車で出発
(なんせ当時のナポレオンズは
 道具をたくさん持って仕事してましたから)して
仙台まで走り、仙台からはフェリーで苫小牧まで
という行程。
東京から北海道まで36時間を要する旅でした。
とにかく無事に苫小牧に着いた我々は、
思っていたより雪が少ない北海道
(北海道はどこでも雪また雪の国だと信じていた。
 もちろん北海道にも地域差があり、
 苫小牧はもともと雪が少ない土地柄です)に、
安どさえしたのでありました。

まずは僕の運転で最初の目的地、
札幌に向かったナポ号(ワンボックス・ワゴン)が
冬の北海道のあの雪の猛威を知るのに、
1時間もかからなかったでしょうか。
ナポ号は突然クルリとあらぬ方向に滑り、
路肩の雪の壁にズッポリと突っ込んでしまった。
「ブレーキを踏むと、そこは雪国であった。
 フロント・グラスの前が白くなった・・・」
実はナポ号のタイヤはごく普通のタイヤでありまして、
どんどん雪深くなる札幌への道を走破するには、
あまりに無力だったのです。
スノウ・タイヤでもスパイク・タイヤ
(現在は禁止されているのですが、当時は必需品でした)
でもなく、ただのタイヤ。
なぜこんな無謀なことをしたのか
記憶が定かでないのですが、
よく事故もなく札幌近くまで行けたもんです。
なんとかどっこいしょと道に戻し、
激しい吹雪のなか、ヨレヨレとナポ号は進みます。
横を地元の車が滑るように追越してゆく。
少し、少しづつ、滑るのにも慣れつつ、
ナポ号はツルリツルリと、札幌をめざします。

「そろそろ交代するかぁ」
相棒のボナ植木の運転に
命運をたくすことになったのでありますが・・・。
「おい、なんか臭くないか? 」
「いや、別に。」
「なんかさぁ、へんな臭いがするんだけど。」
僕は相棒がオナラ、プゥをしたのだと信じていたのでした。
「なんてやつだ、
 こんな密閉空間でこんなきついのをするかぁ? 」
しかし、この臭いの原因がオナラだったら
どんなにかヘーワだったことかなんて、
この時点で知るよしもありませんでした。

しばらくすると、
臭いはかなりのものになってきたではありませんか。
仕方ない、僕は強行手段に出ました。
窓を全開にするという行為が無謀であるのは
承知の上だったのにもかかわらず、
なだれ込んでくる零下20度の風、吹雪。
「死ぬかもしれん。」
本当にそう思ったのであります。
窓を閉めれば呼吸困難、開ければ凍死、
絶対絶命の大ピンチ! 
ところが、ここまでは
まだ大ピンチへのほんの入り口だったとは!
もっと大きなピンチが大口を開けて待っていた。

烈しい雪をかき分けかき分けしてくれていたワイパーが、
目に見えてモッタリモッタリしている。
そうして、ギュウムムム〜、
という音を最期にして雪をたっぷりと積んだまま、
永遠に動きを停止した。
北海道の雪を払うのには、
内地(北海道の人は、本州をこう呼ぶ)の車のワイパーは
あまりに非力だったのですねぇ。
あの不可解な臭いは、
実はワイパーのモーターが
焼け焦げている臭いだったのですね。
あの妙な臭いは、嗅いだ人にしか分からないものです。
(ワイパーのモーターが焼け焦げる臭いって、
 嗅いだ人、いる? )

ナポ号は突然、ワイパーを失なった。
札幌市内に近づくにつれ、車の量が増えてきた。
普通タイヤは相変わらず滑るんだか止まるんだか。
で、更にワイパーが停止。
凍えるので皮手袋でハンドルを握っていたボナ植木は、
時々右手を伸ばして
フロント・ガラスに吹き積もった雪を払うのであった。
その横顔には鬼々せまるものが・・・。
未だかつて相棒のあんな形相は見たことがなかった。
真っ白になったフロント・ガラスに手で払った小さな空間、
そこだけをじっと見つめ、車を走らせるボナ植木。
対向車のドライバーには、
ナポ号はいったいどのように写ったのであろうか。
ヨレヨレと向かってくる、
人が乗ってるのか乗ってないのか、
それすらも分からないフロント・ガラスの白い車。

白一面の雪の結晶のすき間から前方を見て
車を運転する植木。
閉じたまぶたの上に500円玉を乗せガムテープを貼り、
さらに袋をスッポリと被って車の運転をしてしまうという、
ニセ超能力者もあぜんボーゼンの技を発揮する
ナポレオンズのボナ植木の、
思えばこれが能力開発のスタートだったのか。

(つづく)

2001-08-10-FRI
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