MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

第14回
「あのマジシャンはどこに?」


昔むかしのことです。

「万国びっくりショー」という
テレビ番組を見ていました。
万国、なんて言葉がもはや時代を感じさせますよね。
当時としては、絶対に会えることのないはるか彼方、
ヨーロッパの国々のマジシャンたちが
次々に登場する、我々にとっては
夢のような番組だったのです。
日本テレビさんには今でも感謝したいくらい、
ありがたい番組でありました。

ほんの少し、本当に乏しい情報しか
手に入らなかった時代です。
ビデオもまだ存在せず、どこから入手したのか、
数人のマジック・マニアから
ありがたく見せてもらった外国雑誌のマジシャン達。
我々のマジックという概念とはまるで違う、
しかも彼らの放つオーラの眩しさ、妖しさ。
まさに井の中の蛙、大海を見る思いだったのです。

僕らがプロ・デビューした頃は、
マジシャンの仕事場と言えば寄席でした。
従って僕らはマジシャンというより
手品師、奇術師と呼ばれていました。
単に呼称、言葉の違い以上に
マジシャンと手品師の間には
埋められない程の距離があったのです。
どちらが上等、などという比較ではなく、
同じジャンルでありながら
触感、とも言うべきものがまるで違っていたのでした。

「パリ、オランピア劇場で行われた
 世界マジック大会のもようをお送りします!」

ナレーションが、さらに興奮を誘います。
なんといっても、パリですよパリ!
さらにオランピア劇場だもんなぁ! 
出て来るマジシャン達が
自信たっぷりの表情で演ずるマジックは、
今まで見たこともない華麗さ、不思議さ! 

完全に打ちのめされた我々の目に、
突如あのマジシャンが現れたのです。
彼は穏やかな目をしていました。
しかし、両手の純白の手袋は
メラメラと炎に包まれている。
右手の炎を吹き消し、
続いて左手の炎を消したその瞬間、
彼の指先には鳩が羽ばたいているのでした。

彼の名は八田カズオ、日本人マジシャンだったのです。
僕らがヨチヨチとこの世界に踏み出した頃、
すでにパリのオランピア劇場で観客を魅了していた
日本人マジシャンがいた!
タキシード姿で、
いわゆるヨーロッパ・スタイルのマジックを演じていながら、
八田カズオの表情には
「日本」が色濃く表れていたのでした。
それが、たまらなく胸を打ったのでしょうか、
あの一瞬の影像は僕の脳裏に焼きついてしまいました。

当時、僕らが感じていた、
日本の手品師と欧米のマジシャンとのなにか
「手触り」の違いのような距離を、
八田カズオは軽やかに越えていたのです。
八田カズオに会いたい、
八田カズオのステージを見てみたい、
それが夢にまでなってしまいました。

ですが、それは未だ叶わぬ夢のままです。
誰ひとり、彼の消息を知る人がいないのです。
八田カズオは、オランピア劇場での
さっそうとした姿を最後に、
マジックの世界から消え去ってしまったのです。
「東京にいるらしい」
「旧知のレストランで働いているらしい」
聞こえて来るのは噂話ばかりでした。

ところが2年前、あるパーティで出会った
フランス料理のシェフから、意外な話を聞いたのです。
彼がフランスで料理の修行中だった頃、
やはりマジックの修行中だった八田カズオと
パリのレストランで知り合い、
料理をよく作ってあげたというのです。
残念なことに、彼はその後の
八田カズオの消息は知りませんでした。
しかし彼の語る八田カズオは、
僕の中で偶像になっていたマジシャンではなく、
一人の生きた人間でした。
パリの空の下、お腹をすかした孤独な若者だったのです。

「八田カズオはとうの昔に
 マジックを止めてしまったんだよ」
きっと噂話は事実でしょう。
しかし、なぜ?
その問いに対する答えは永久に得られないのでしょうか。

さて、「ほぼ日」愛読者の皆さん、
こんなマジックを宴会、パーティでやってみましょう。


1.手のひらを書いた紙を用意する。
2.タバコの火をどれかの指に近づけてもらうと
  マジシャンの同じ指に水ぶくれが出来ている!!

★さて、HOW TOです。

1.カギを用意し、穴の一方をテープ等でふさぐ。
2.観客がタバコを近づけた指を見て、
  ポケットの中でその指にカギ穴を押しつける。
3.「アッチッチ」と言いつつ、
  水ぶくれを見せる。

4.カギ穴を押しつけたアトが
  水ぶくれのように見えるのだ。




そしてマジックの後で、
「ところで八田カズオさんて知らない?」
と尋ねてくれませんか? 

2000-11-16-THU

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