MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

第2回
<初代、引田天功をご存知?>


初代、引田天功をご存知?
いや、知らなくても仕方ないですよね、
亡くなって早や20年です。
その天功先生が、我々ナポレオンズの師匠でした。
テレビ時代の、大スターでした。
「死のジェットコースター」
「火炎地獄からの大脱出」
などなど、出演する番組は常にセンセーションを
巻きおこしたのでした。

僕らが弟子入りしたのは、亡くなる2年ほど前。
鬼と噂された師匠ではなく、
僕らにとっては実に純粋な、
悩めるマジシャンでした。
僕らは、大学のサークルでマジックを学び、
海外からの情報も入り始めたころ。
師匠は僕らの知識を、大いに重用してくれたのでした。

最近、インタビューを受ける機会がありました。
「天功先生から教わったことは? 」
の問いに対する答えは
「教わったことは無いですが、教えたことは多数です」
しかし、天功師匠にはマジックの可能性、
マジシャンのイメージなど、
我々の人生、未来など、
すべてを訓えていただきました。
天功師匠がいなかったら、
もちろん今の僕たちの存在もなかったでしょう。
天功先生の家は、もちろん田園調布、
車はベンツなどなど、
当時の僕たちにはこの世の暮らしとは
思えないものでした。

ある日、先生ご自慢の車が届きました。
モーター・ホーム、
つまりはキャンピング・カーです。
これがでかい!
今では、そんなに珍しくはないかもしれませんが、
当時は道行く人が振り返るほどのインパクトがありました。
京都でのショーに、
このモーター・ホームで行くことになりました。
ガレージからすぐ近くの環状線に出るのに、
なんと1時間。
大き過ぎて、ちょっとした角を曲がるのにも、
何度も切りかえさないと曲がれないのです。
燃費はリッターあたり1キロくらい、
東名高速の全部のサービス・エリアで給油です。

見知らぬ人がひとり乗っていました。
名古屋のあたりだったでしょうか、
車の下からオイルが漏れだしました。
すると、その見知らぬ男がスルスルと
車の下に潜りこんだのです。
そう、彼の正体はモーター・ホーム専用の
整備士だったのです。
車内にはベッド、トイレはもちろん、
カラオケまで付いていた!

ともかくも、京都に着きました。
ショーは、当時、人気絶頂の
大村昆さんのトークで始まりました。
会場、笑いの渦です。
僕らは心配しました。
我らが天功先生は、はたして
この盛り上がりに勝てるのか。

先生はロープ1本でステージに立ちました。
ドカンドカン受けました。
ステージそでで、泣きそうなほど感動しました。
2部は、催眠術ショー。
ステージに上がった客たちが小声で呟きます。
「俺は、かかんないよ」またまた心配しました。
先生は、いきなりマイクできっぱりと言い切るのでした。
「馬鹿は、かかりません!」
全員が催眠状態になりました。
僕らは、静かにうなるのでした。

そんな天功先生も、晩年は心臓疾患、多額の借金など、
悩み苦しむ日々が続きました。
しかし、そんな状況のなかでも、
先生には見はてぬ夢がありました。
それが「ナイアガラの滝からの大脱出」だったのです。
借金返済はおろか、さらなる飛躍、
世界進出までも思い描いていたのです。
そんな天功先生の人生にも、
幕切れは容赦なくやってきました。
僕らの先生、ただひとりのヒーロー、
本当のカリスマは、あっさりと帰らぬ人となりました。

反面教師の部分もありました。
つらい思いもありました。
しかし、今でも、もし生まれかわっても、
再び天功先生の弟子になりたい、今でもそう思うのです。
先生の口グセを思い出します。
「君らはちょっと、面白い」。

2000-06-18-SUN

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